No.00359 Open Heart |
アールクレール -透明な芸術-
どのような情景も映し出せるハート型ロケット。 変幻自在なスケルトンの小さな宝物です♪♪ |
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シンプルに見えますが、これまでで最も小さなオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドのカット&セッティング技術は圧巻です!蝶番が見えないハート型ロケットの精巧な作り、丸みを帯びた極小チェーンなど細工の見どころも満載です!♪ |
オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド、ローズカット・ダイヤモンド、さらにクリスタルグラス、ソーダガラスという透明な素材の特徴を比較できる、知的にも最高に魅力的な宝物です!♪ |
極小ダイヤモンドの高密度のシンチレーション!♪
極小ダイヤモンドの透明度と見事なファイアが特別な宝物の証!♪
『Open Heart』 イギリス 1900年頃 3種類の透明な素材で作られた、品が良く美しいロケット・ペンダントです。意図して使用されたグリーンのソーダガラスと、ダイヤモンドやクリスタルグラスとの比較が面白く、ハイジュエリーとして他には絶対にない知的な組み合わせです。 |
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クリスタルグラス・メーカーの経営者の男性がオーダーしたとみられ、将来の社長夫人に贈るため、あるいはメーカーとしての誇りをかけてコンテストに出展するために作られたと推測できます。コンテスト・ジュエリー・クラスの宝物に相応しい出来栄えで、この宝物がこだわりを持って作られた最高級品であることを示すメインストーンは、これまでに見たことがないほど小さなオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドが使用されています。高精度のカットは圧巻で、小さく華やかな輝きが見事です。クリスタルグラスのハート型のカットもセンス抜群で、セットしたフレームの精緻な作りは第一級の職人の技術を確信します。蝶番が見えない設計だからこそ、美しいハート・フォルムに意識を没入できます。パドロック(南京錠)を開ける、心の鍵を下げた極小チェーンも丸みを帯びた特別製で、細部へのこだわりが尋常ではありません。アンティークジュエリーの魅力が詰まった、時を超えた小さな宝物です♪ |
この宝物のポイント
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1. パドロックのロケット・ペンダント
1-1. 定番人気の愛のモチーフ
ヨーロッパ定番の愛のモチーフ、パドロックのロケット・ペンダントです♪ パドロックとは南京錠のことです。愛のモチーフは様々ありますが、パドロックのジュエリーが考案されたのはリージェンシーの時代でした。 |
1-1-1. 知的な上流階級の男性が夢中になった錠前技術
南京錠 "Padlock klodka ubt" ©Tomasz Sienicki/Adapted/CC BY-SA 3.0 | 南京錠の歴史は古く、紀元前まで遡ります。 紀元前500〜紀元前300年の古代ローマで使用されていた証拠がありますが、アジア各地でも旅をする商人が使用していたとされます。 どこでも持ち運びできるのが特徴なので、商人を兼ねた遊牧民や海洋交易民が使用していたのは納得ですね。 |
ダイヤル式南京錠 "Padlock 4 combination" ©wdwd/Adapted/CC BY 3.0 | 見た目はシンプルですが、錠前技術は不正開錠技術とのいたちごっこです。 いかに不正を防止するか、高度な頭脳戦かつ精密技術の戦いです。 |
錠前技術を趣味の1つとしたフランス王 | |
フランス王ルイ16世(1754-1793年) | 南京錠の内部構造 "Couble Ball Cutaway Padlock (open)" ©Dennis van Zuijlekom from Ermelo, The Netherlands/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
いかにも賢い男性が好きそうですよね。実は錠前技術が18世紀後期から19世紀初期にかけて上流階級の知的な男性に流行しており、その最も有名な人物と言えるのがフランス王ルイ16世です。「狩猟と錠前作りが趣味で妻マリー・アントワネットに操られる無能な王」とレッテルが貼られ、フランス大統領時代のニコラ・サルコジが「私は宮殿で錠前作りに明け暮れる暗君のようにはならない。」と無能な政治家として例えたことが知られています。 処刑した王が立派な人だったら都合が悪いために行われた、印象操作によるものです。狩猟と錠前作りは、実際には当時の王侯貴族の男性のお手本のような趣味です。 |
1792年8月10日の戦いを前にし、フランス元帥マイイを伴って整列するスイス衛兵隊の前を通り過ぎるフランス王ルイ16世 | 若い頃のルイ16世は、細過ぎる体型をルイ15世から心配されたほどだったそうです。 女性と違い、王族の男性は貫禄や威厳が必要とされます。わざと太めに見えるよう肖像画を描かせることもあったようです。 元々身長が192cmもあり、趣味としてほぼ毎日狩猟に出かけていたため、大人になった頃にはガタイの良いヘラクレス体型の力持ちだったそうです。 乗馬も兼ねる全身運動であり、命懸けの生き物を相手にする頭脳戦でもありますから、それだけで身体も頭脳も鍛えられたことでしょう。 |
狩猟服姿のフランス王妃マリー・アントワネット | |
マリー・アントワネット(1755-1793年)1771年、16歳頃 | マリー・アントワネット(1755-1793年)1783年、28歳頃 |
ルイ16世を慕っていた王妃マリー・アントワネットは、一緒にいるために付いて行ったりもしていたそうです。だからこそ、狩猟服姿の肖像画も残っているわけです。この絵を見ていると、仲が悪い、狩猟の趣味を嫌がっていたなどの話は印象操作だったのだろうと感じます。 貴婦人が狩猟に帯同することは昔からあり、やがてピクニック文化、さらにはガーデン・パーティとして発展していきます。運動し、景色を眺め新鮮な空気を吸いながらお外で食事するのは、最高に楽しいですしね。それは私たちも昔の人たちも変わらないはずです♪ |
民衆に示される国王ルイ16世の首(1793年) |
ギロチンの刃の角度を提言し、そのギロチンで自ら処刑になったと揶揄されたりもしていますが、技術的な教養も高かった証です。 |
ハープを奏でる王妃マリー・アントワネット(1777年、22歳頃) | 一家でタンプル塔に幽閉された際は、マリー・アントワネットが持ち込んだハープで家族の心を癒した一方、ルイ16世は子供たちにラテン語やフランス文学、歴史、地理などを教えました。 フランス国王に相応しい知的教養も備えた人物だったわけです。 錠前作りを趣味とするだけあって知的好奇心が高く、メカニカルなことも得意で大好きだったのでしょうね。 |
ローズエンジン旋盤(1760年頃) | 器用さも兼ねた人ならば、自分で試行錯誤しなければ気が済まないものです。 ポンパドゥール夫人もわざわざ先生を雇って、自らインタリオを彫刻したこともあるそうです。 |
当時最先端だったエンジンターンによる知的で贅沢な宝物 | |
『Geometric Art』 ゴールド ロケット・ペンダント イギリス 1840年頃 SOLD |
【参考】エンジンターンの様々な模様 |
ローズエンジン旋盤はスピログラフと同じ原理で模様を彫刻するため、そのパターンは無限に存在します。私もスピログラフにハマりました。自分だけの最高に美しい模様を求めて、知的な上流階級が夢中になるのは物凄く理解できます。幾何学的な知的探求は、終わりがありません♪
ただしお金も膨大にかかります。ポンパドゥール夫人のように、第一級の職人を先生として雇うのもお金がかかりますし、旋盤などの設備を購入したり、試作品を作るにもかなりのお金がかかるものです。これはモノづくり系の大企業で研究開発をやっていたので、実感しています。大企業レベルの研究開発投資を、一個人でやっていたのが古の王侯貴族だったのです。やりたいようにやれるので、研究開発者として才能ある人には理想の形と言えます。 |
南京錠の内部構造 "Couble Ball Cutaway Padlock (open)" ©Dennis van Zuijlekom from Ermelo, The Netherlands/Adapted/CC BY-SA 2.0 | そのような感じでルイ16世をはじめ、錠前作りに夢中だったのが18世紀後期から19世紀初期にかけての貴族の男性たちでした。 お金なんて持っているのが当たり前の世界なので、持ち物価格などでの自慢大会は成立しません。 見た目や機能性の優れた錠前は、優れた頭脳やセンス、様々な研究開発投資ができる財力の証明になります。そのような知的な部分こそ人として秀でている証であり、懸命に磨いて競い合っていたわけですね。これが古の王侯貴族の世界です。 |
1-1-2. リージェンシーらしい愛のモチーフ
一途な愛を示すパロドックのジュエリーは錠前技術の発展に伴って流行し、リージェンシー(摂政王太子時代)に最も流行しました。 これは当時ファッションリーダーだった、摂政王太子ジョージ4世の恋愛が大きく影響しています。 |
プリンス・オブ・ウェールズ時代のジョージ4世(1762-1830年)18-20歳頃、1780-1782年 | マリア・フィッツハーバート(1756-1837年)32歳頃、1788年 |
詳細は以前ご説明しましたが、ジョージ4世には生涯想い続ける最愛の女性が存在しました。21歳で出逢った、6歳年上の未亡人マリア・フィッツハーバードです。しかし、王位継承者であるジョージ4世は王族としか結婚が許されない立場でした。それでも無理して極秘結婚するほど夢中でした。 |
摂政王太子時代のジョージ4世(1762-1830年)1814年、52歳頃 | マリア・フィッツハーバート(1756-1837年) |
結局、その環境が二人が共に在ることを許さず、ジョージ4世は全く好きでない女性と不幸な結婚しました。満たされぬ心を癒すかのように、多くの女性と浮き名を流しました。しかし、運命の女性を知ってしまった後では、どれだけの人数、代わりの女性を相手にしようとも決して心が満たされることはありません。 ジョージ4世は役目として、時期王位継承者を作る必要がありました。相性が悪かった正妻キャロラインとの間に長女シャーロット王女が生まれた3日後には、次のような遺言書を作っています。 |
マリア・フィッツハーバート(1756-1837年) | 結局、2人がこの世で再び一緒になることはありませんでした。 死に臨み、ジョージ4世はマリアの瞳を描いたミニアチュールを首元に置いて埋葬するよう頼み、実行されたそうです。その後、マリアからの手紙をジョージ4世は全て大切に保管していたことが発見されました。 21歳の若さで出逢い、過ぎ去りし一瞬の幸せな日々を胸に、67歳で亡くなるまで苦しく切ない愛を続けたジョージ4世。その誠実で強い愛が、リージェンシー独特のスタイルや流行を生み出したのです。 |
【参考】アイ・ポートレート ブローチ(19世紀初期)【引用】V&A Museum © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
アイ・ジュエリー | 宝石で秘密のメッセージ | パドロック(南京錠) | |
『REGARD』 REGARD ロケットペンダント イギリス 1820年頃 SOLD |
ルビー パドロック ペンダント イギリス 1850年頃 SOLD |
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アイ・ポートレート ペンダント イギリス 1790〜1800年頃 SOLD |
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秘めた愛や、一途な愛を感じるものが好まれました。一目で分かりやすいド直球な表現ではなく、ひねりがあるのが魅力です。想像の余地があることで余韻が生まれますし、受け取り手次第で、込めた想いやメッセージの内容はいくらでも広く深くすることができます。日本人の美意識が好む、『不完全な美』にも通じます。本来の日本人が好む、優れた宝物が特にリージェンシー・ジュエリーには多いです。 |
『大切な想い人』 リージェンシー フォーカラー・ゴールド 回転式フォブシール イギリス 1811〜1820年頃 ¥1,200,000-(税込10%) |
愛する女性を模した、美しい花々。 ロッククリスタルの風防で守り、肌身離さず愛しい人を想い続ける。 表現法はそれぞれ個性がありますが、同じように切ない恋をする王侯貴族は多かったのかもしれません。 ジョージ4世のような恋愛に共感する男性が多くいたからこそ、このような心に響く名品が作られたのでしょう。 |
『ライア(竪琴)』 天然真珠 ブローチ イギリス 1820年頃 SOLD |
身分違いの愛に苦しむジョージ4世の時代、パロドックのジュエリーを愛する女性に贈ることが大いに流行しました。 たとえ許されぬ愛であっても、私の心は貴女だけのものです。貴女だけにしか、決して私の心を開くことはありません。 硬く閉じた南京錠に、送り主は自分の想いを込めました。 男性主体のモチーフなので、鍵で開閉するなどのギミック的な面白さが強く存在します。知的な上にロマンティックなので、大人の女性にとっても魅力がありますよね♪ |
1-2. レイト・ヴィクトリアンらしい軽やかなデザイン
優れたものは流行の後、陳腐化して流行遅れになることなく定番化します。 パドロックにはそれだけの強い魅力がありました。このため様々な時代に作られており、持ち主の個性だけでなく時代ごとの特徴があります。 |
1-2-1. 時代ごとのパドロック・ジュエリー
ジョージアンのジュエリーは制作数自体が格段に少ないことに加えて、稀少な宝石を使っているものは王侯貴族の家でも、時代ごとにリメイクするのが当たり前でした。このためジョージアン・ジュエリーの多くは既に失われており、過去47年を見るとヴィクトリアン初期から中期にかけてのものが多いです。 |
イギリス 1820年頃 SOLD |
イギリス 1850年頃 SOLD |
イギリス 1850年頃 SOLD |
イギリス 19世紀中期 SOLD |
フランス 1860〜1870年頃 SOLD |
イギリス 1860年頃 SOLD |
アメリカ? 1880年頃 SOLD |
イギリス 1900年頃 今回の宝物 |
時代を反映して、ヴィクトリアン初期から中期にかけてのパドロックは重厚で荘厳な存在感があります。今回の宝物の異彩さは一目で明らかです。まさにヴィクトリア女王からアレクサンドラ妃への、ファッションリーダーと時代の移り変わりを感じます。 |
1-2-2. 女王と王妃の大きな違い
1861年に最愛のアルバート王配を失い、その後2度とヴィクトリア女王が華やかなファッションに身を包むことはなかったそうです。年齢的なこともあり、必然的に女性のファッションリーダーは王太子妃のアレクサンドラ妃に移っていきました。 ヴィクトリア時代ということで一括りに見てしまいがちですが、実はミッド・ヴィクトリアンとレイト・ヴィクトリアンでファッションリーダーが変わっているのです。それもあって、王侯貴族の流行スタイルに大きな変化が起きているのです。 |
女王:君主の女性 | 王妃:君主の妻 |
英国君主ヴィクトリア女王(1819-1901年)1859年、40歳頃 | プリンス・オブ・ウェールズ時代のエドワード7世一家(1876年)アレクサンドラ妃は32歳頃 【出典】Royal Collection Trust / © Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 |
ヴィクトリア女王は君主です。一方、アレクサンドラ妃は王太子妃、後に王妃です。どちらも女性として国のトップという立ち位置ですが、両者は大きく異なります。 女王は最も偉くて凄くなければなりません。国を代表する立場なので、他国に遅れを取ったり舐められるようでは国民が不幸になります。 王妃は君主を支える立場です。主役として前に出ていき主張するのではなく、名脇役として美しく優しく、控えめで清楚な雰囲気を持ちながらも知的に力強く支える、縁の下の力持ち的な存在が理想です。 |
帝国主義における大英帝国の女王 | |
帝国主義の風刺画(アンリ・マイヤー 1898年) | ヴィクトリア女王(1819-1901年)79歳頃 |
帝国主義の環境もあって、ヴィクトリア女王は無理をしてでも虚勢を張る必要がありました。ただでさえ女性というだけで頭が弱い、すぐ感情的になる、弱いなどと見られがちな時代でしたから、凄そうに見せなくてはならなかったわけです。 |
ヴィクトリア女王のオパール・ピアス(1850〜1860年頃) 【引用】ABC News / Royal opals worn by Queen Victoria sent to Adelaide for SA Museum exhibition (24 September 2015, 5:57) |
本来は成金でなければ着けないようなジュエリーがミッド・ヴィクトリアンの王侯貴族に流行したのは、帝国主義の時代の『女王』がファッションリーダーだったからです。 ヴィクトリア女王も本来は激しく主張するのが好きではなく、愛する理想の王子様の側でロマンティックに生きていければ幸せという女性だったようです。 |
レイト・ヴィクトリアン〜エドワーディアン頃のファッション (1890〜1910年頃) |
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アレクサンドラ王妃(1844-1925年)1904年、60歳頃 | ||
激しく主張することを好む女性もいるとは思いますが、多くの上流階級の女性はそのような振る舞いは好みません。次のファッションリーダーとなったアレクサンドラ妃は見た目の美しさだけでなく、いかにも王族らしい気品とエレガントさを持つ貴婦人として社交界でも評判でした。本来の上流階級が好み、理想とする姿です。 |
『L'eau』 オパール ロング・ネックレス イギリス 1900年頃 ¥3,300,000-(税込10%) |
『楽園の乙女』 ウィッチズハート ハーフパール ブローチ イギリス 1900年頃 SOLD |
『アール・クレール』 ロッククリスタル ロケット・ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
とにかく面積を広げたり、隙間をとにかく埋め尽くすようなミッド・ヴィクトリアンのジュエリーから一変しました。 ナイフエッジや透かし細工、空間をセンス良く取り入れたデザイン。淡い色彩の宝石の流行であったり、透明をデザインしたり。軽やかで気品に満ちたジュエリーが創り出されました。 |
この宝物はわざわざ複雑なハート型でロケットにし、しかも中央に技術と手間をかけて極小ダイヤモンドをセットしているなど、しっかりと高級感があります。 それでいて美しい透明感と軽やかさを感じるデザインは、いかにもレイト・ヴィクトリアンからエドワーディアンにかけての高級品なのです♪ |
1-2-3. 透明なロケットならではの表情の変化
市場の枯渇が進んでいることもあり、パドロックのハイジュエリー自体が市場で滅多に目にすることがありません。そのような中で、これまでに見たことのない軽やかな美しさのパドロックに驚きました!♪ てんこ盛りで高級感を主張するヴィクトリアンと違い、このような宝物は良さが分かりにくいので玄人向けです。故に、Genも私も即反応しました(笑) |
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分かりやすい主張をして来なくても、作りが良いものは凛とした品の良さが滲み出て、特別な存在感を放つものです。透明な芸術は、肉眼でなければその清らかな美しさが分かりにくいですが、表情の変化は抜群です。衣服の色や柄でも表情を変えますし、この宝物はロケットだからこそアレンジの幅も広いです。Genのアイデアで、押し花を入れてみました♪ |
紙や布で色を変えてみたり、模様次第で雰囲気も豊かに変化します。もう少し精密にカットした方が良かったですが、撮影用に使用したこの紙はお求めになった方に差し上げます。 |
想い出のある布や押し花などを入れても良いですが、純粋に変化のあるオシャレを楽しめるロケット・ペンダントです♪ |
20世紀に入るとスタイリッシュな傾向が強まっていき、ハートのモチーフは目にしなくなっていきます。金属も白いプラチナなどに移ってしまうため、高度な金細工を組み合わせた軽やかな宝物は、ごく短い期間しか制作されていません。 実は見つけるのがとても難しい、ラッキーな宝物です!♪ |
2. クリスタルグラスを駆使したアール・クレール
ダイヤモンドを使用しロケットの作りも抜群に良かったのと、摩耗感がなくコンディションも良かったので、本体はロッククリスタルと推測しました。それなのに鑑別結果はクリスタルグラスで意外した。 明らかに美意識の高い人のための高級オーダー品なので、不思議に感じました。上部の取っ手の右側はローズカット・ダイヤモンドで、左側は通常のソーダガラスです。ここに知的に面白い謎を解く鍵があります♪ |
2-1. 透明な美を追い求めたヨーロッパ貴族の歴史
2-1-1. 『透明な美』を人工的に作る難しさ
オイノコエ(紀元前6-紀元前4世紀)東京国立博物館・東洋館 | 砂を原料とするガラスは、古くから加工技術が存在しました。紀元前の時代から、既にモダンアートのような作品まで制作されています。 東京国立博物館の東洋館の展示品で、初めて見た際は色彩の鮮やかさに驚きました。透明感はほぼありません。 |
青色ガラスの首飾(ギリシャ本土、後期ヘラディック時代V期 紀元前14-紀元前13世紀頃)個人蔵 | 縦畝装飾鉢(古代ローマ 1世紀)東京国立博物館 |
純粋と言えるほど透明なガラスを作るのは、高度な知識と技術を必要とします。不純物の精製が難しい時代は、着色して青みがかった色にする方が綺麗に感じたりします。『透明な美』を人工的に作るのは難しいのです。 |
2-1-2. 理想の美を持つ上質なロッククリスタル
理想の透明感を持つ存在と言えば、ロッククリスタル(水晶)です。ただし本当に無色透明と言える、濁りのない大きなロッククリスタルを得るのは非常に難しいです。 |
ロッククリスタルにゴールドの蓋の水差し(ファティマ朝 1,000年頃) | 石英の結晶(ブラジル産) " Quartz Brésil " ©Didier Descouens(2010)/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
ロッククリスタルは古代ローマの博物学者プリニウスも言及している稀少な宝石です。 安定した環境であっても、早くても100年かかって1mm程度しか成長しません。2cm以上の大きさになるものは極端に少なくなるとされます。1cmで1,000年以上、2cmなら2,000年以上もかけてできているわけですね。だからこそ日本でも『玻璃(はり)』と呼ばれ、珍重されてきました。 |
『アルプスの溶けない氷』 ロッククリスタル 回転式3面フォブシール イギリス 18世紀後半 ¥1,400,000-(税込10%) |
ユニコーンのシール フランス 1780年〜1800年頃 SOLD |
至極のシール イギリス 1810-1820年頃 SOLD |
ガラス技術が未熟な時代、ロッククリスタルの透明な美術工芸品は王侯貴族の富と権力の証でもありました。王侯貴族の男性のステータス・アイテムからも、美意識の高さと共にそれが伝わってきます。 |
2-1-3. クリスタルグラスの熱心な研究開発
天然の宝石はいかに権力のある王様でも、巨万の富を持つ大富豪でも好きなだけ手に入れることはできません。宴席用に人数分のゴブレットをロッククリスタルで作るなんて、絶対に不可能な話です。人工的に大型のロッククリスタルを合成できるようになったのは戦後のことです。 |
ロッククリスタル(天然水晶) | クリスタルグラス(溶錬ガラス) |
ロッククリスタルのゴブレット ドイツ 17世紀 ロッククリスタル、ルビー、ゴールド、エナメル ワデズドンマナー蔵 |
ポーランド王/リトアニア大公ジョン3世の紋章入りクリスタルグラス・ラマー(ジョージ・レイヴンスクロフト社 1677-1678年) |
そういうわけで、早い時代から王侯貴族がパトロンとなって、美しいガラスを作る技術が研究開発されました。透明度の高さだけでは不十分で、ロッククリスタルのような硬質な輝きを生み出すために、高い屈折率も求められました。15世紀になると、酸化鉛と酸化マンガンの添加により屈折率の高いクリスタルグラスが完成しました。 産業規模でのクリスタルグラスの量産に最初に成功したのは、イギリスのジョージ・レイヴンスクロフトでした。右のように、ポーランド王/リトアニア大公からもオーダーされるほど画期的なことでした。 |
2-1-4. ガラス産業の中心地となったイギリス
元々、ガラス産業の中心地と言えばヴェネツィアやボヘミアでした。それを変える元となったのが、イギリスの実業家ジョージ・レイヴンスクロフト(1632-1683年)でした。ヴェネツィアに住んでいた1651年から1666年の間に2人の兄弟と貿易事業を立ち上げ、成功を収めました。ガラス製品も扱っており、メーカーとも関連があったようです。1666年にロンドンに移り、貿易商を続けました。 |
クリスタッロのグラス(イタリア 1550〜1650年頃) | 当時、イギリスではイタリアの『クリスタッロ』を真似していくつかのメーカーがガラス製品の製造を始めていました。 クリスタッロはベネツィアのグラス・アーティスト、アンジェロ・バロヴィエが1450年頃に発明したクリスタルグラスです。 酸化鉄の不純物に由来する僅かな黄や緑がかった色のない、完全に無色透明なガラスです。 一般的なガラスの材料に加えてマンガン、石英小石、ソーダ灰を適量添加することで実現します。 |
サルソラ・イナーミス "Salsola soda Rignanese" ©Luigi Rignanese(2 November 2006)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
酸化マンガンなども重要ですが、クリスタッロの有名な透明度は『レバント・ソーダ灰』の純度に依存しました。そして、成分などは秘密にされていました。 レバント沿岸地域に自生する、この植物の灰を使用していたそうです。灰は慎重にふるいにかけ、再度水に入れて、絶えず混ぜながら優しく煮ました。煮て乾燥させ、ふるいにかけると言う作業の繰り返しによって純度を上げていました。 相当な手間がかかりますし、手法や分量などの最適レシピの考案はまさに錬金術であり、科学ですね。 |
初期の量産クリスタルグラス製品(イギリス製) | |
クリスタルグラス・ラマー(ジョージ・レイヴンスクロフト社 1677年頃)【引用】V&A Museum/ Drinking Glass © Victoria and Albert Museum, London/Adapted | クリスタルグラス・ラマー(ジョージ・レイヴンスクロフト社 1677年頃)【引用】V&A Museum/ Drinking Glass © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
イギリスに戻ったジョージ・レイヴンスクロフトは周囲の動きを見て、自身でもガラス・メーカーを立ち上げることにしました。レイヴンスクロフト自身は実業家なので、コネのあるベネツィアから優秀な職人を招聘したようです。 | |
研究開発には莫大な費用が必要です。日々の生活のために日銭を稼ぐような労働スタイルでは、どんなに才能がある人でも新たな発明は不可能です。膨大なお金を稼ぐことができるポテンシャルがあっても、先行投資なしには開発はあり得ません。 レイヴンスクロフト社の成功は、本業の貿易商として成功した資金を原資に、優秀な職人を雇って研究開発費を投資できたことが大きかったでしょう。酸化鉛を使ったクリスタルグラスの量産に成功しました。ジョージ・レイヴンスクロフトが1681年に亡くなると特許が失効し、複数のメーカーで事業が急速に発展しました。こうしてイギリスはイタリアを追い越し、18世紀から19世紀にかけてイギリスはガラス産業の中心地となりました。 |
2-1-5. クリスタルグラスの進化
天然の宝石と違い、人工物であるクリスタルグラスは1つのレシピが完成したら終わりというわけではないのが面白いところです。さらなる品質向上を求めて素材や製法、カットなどが研究開発されました。 |
劣化したクリスタルグラス | |
ガラス病を発症したボトル "Glassdisease" ©Richardjames444 at English Wikipedia(12 August 2006)/Adapted/CC BY 2.5 | ワイングラスの脚(ジョージ・レイヴンスクロフト社 1676〜77年頃)【引用】V&A Museum/ Drinking Glass © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
酸化マンガン系のクリスタッロは石灰の含有量が低いため、ガラス腐食(ガラス病)になりやすかったそうです。 レイヴンスクロフト社の酸化鉛系のクリスタルグラスも、収縮による割れの問題などが課題でした。上はヴィクトリア&アルバート美術館の所蔵品です。オブジェにも見えますが、ただの割れたワイングラスの脚です(笑) |
【ミュージアム・ピース】破損したワイングラスの脚(1676〜77年頃) 【引用】V&A Museum/ Drinking Glass © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
ヨーロッパの大美術館が所蔵するミュージアム・ピース!!!(笑) 品質の安定性、無色透明な美しさ、カットが映える高屈折率の実現、より効率的な量産技術。メーカーの研究開発はずっと続きます。それぞれに門外不出の秘伝の技術、今で言う企業秘密を保有し、より優れたメーカーが王侯貴族から愛されてきました。 |
2-1-6. クリスタルグラスと王侯貴族の文化
15世紀のシャンデリア | |
『アルノルフィーニ夫妻像』(ヤン・ファン・エイク 1434年) | 富と権力を象徴する豪華なシャンデリア |
クリスタルグラスの量産技術がなかった時代、肖像画の中心に描かれるクラスの豪華シャンデリアと言えば、このような感じでした。 |
フランス王ルイ14世とマリー・テレーズ・ドートリッシュの婚儀(17世紀)テッセ美術館 |
1660年のフランス王ルイ14世の婚儀も、上質な長い蝋燭は当時かなりの高級品でしたが、現代人の感覚だと質素に感じてしまいますね。 |
ベルサイユ宮殿の鏡の間(1668年に増築) "Chateau Versailles Galerie des Glaces" ©Myrabella / Wikimedia Commons(25 May 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
そのルイ14世(在位:1643-1715年)によって建てられたヴェルサイユ宮殿『鏡の間』は、クリスタルグラスの量産技術が確立された時代に重なります。豪華なクリスタルグラスのシャンデリアで彩られ、世界中の誰もが知るラグジュアリーの象徴となりました。贅沢の限りを尽くしたルイ14世らしい豪華絢爛さですね。 量産できるようになったとは言え、かなりの手間と技術を必要とするクリスタルグラスは現代人がイメージするより遥かに高価だったはずで、まさに革命前のフランス王の富と権力の象徴でした。 |
フランス王ルイ15世の公妾ポンパドゥール夫人(1721-1764年) | カットされた美しいクリスタルグラスの輝きをより一層印象的にするには、たくさんの蝋燭も必要です。 ルイ15世の時代も毎晩使用する蝋燭代が凄かったようです。 公妾ポンパドゥール夫人が年間に消費した物品リストの内訳によると、最も莫大な金額だったのが蝋燭代だったそうです。 獣脂蝋燭は臭いので、宮廷では高価な蜜蝋が使用されていました。蝋燭代に、蝋燭の取り替えやシャンデリアの掃除とメンテナンスをする使用人の人件費に・・。今では明るいのは当たり前ですが、当時は豪華な明かりのために、一体どれだけのお金と人の手をかけていたのでしょうね。 |
HERITAGEのアンティーク・シャンデリア |
HERITAGEのアトリエにも、Genがお気に入りのアンティーク・シャンデリアがあります。小ぶりながらもクリスタルグラスをふんだんに使用したシャンデリアは重量があり、一度天井が落っこちて工事したそうです。その価値はありました。点灯していない時も、カットグラスの煌めきや透明感が美しいです。 |
HERITAGEのアンティーク・シャンデリアが描き出す天井の影模様 |
Genが特に自慢なのは、天井に描き出される景色です。Genが大好きな『光と影の芸術』です♪ 夜、暗くなるとハッキリとした陰影が浮かび上がります。蝋燭を使っていた時代は、人々の気配に合わせて蝋燭の炎がゆらめき、豪華なシャンデリアが本当に美しい景色を浮かび上がらせていたでしょうね。美しいものをこよなく愛する、社交界の人々を虜にしたのも納得です。 |
イギリスの初期のグラス・シャンデリア | |
ケンブリッジ大学エマニュエル・カレッジの教会のシャンデリア(1732年) "Emmanuel College Chapel 1, Cambridge, UK - Diliff-trimmed and adjusted" ©Diliff(22 July 2014, 14:33:25)/Adapted/CC BY-SA 3.0 | バースのアセンブリー・ルームのシャンデリア(ウィリアム・パーカー 1771年) "Assembly rooms in Bath, Somerset-4547168251-trimmed-adjusted " ©Heather Cowper(18 April 2010, 10:43:12)/Adapted/CC BY 2.0 |
これはイギリスの初期のグラス・シャンデリアです。1700年代に制作されたものですが、劣化せず透明度を保てているので、何も言われないとそんなに古いようには見えないですね。そうは言っても、軽くて割れないアクリル樹脂と違い、重くて割れるクリスタルグラスでここまでの造形を作り出すなんて、圧巻の職人技です。 右のアセンブリー・ルームズのシャンデリアは電球で点灯されています。当時もかなり華やかだったでしょうね。 |
アセンブリー・ルームズ グレート・オクタゴン "Octagon Room" ©Glitzy queen00 at English Wikipedia(7 June 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
アセンブリー・ルームズは以前ご説明した通り、イギリス唯一の天然温泉リゾートとして社交の中心地に発展したバースに1771年に建設された社交場です。世界各地から上流階級や文化人が集う、時代の最先端が詰まった場所でした。用途に合わせて様々な部屋があります。 |
アセンブリー・ルームズ ティールーム "Bath Assembly Rooms - Tea Room" ©Glitzy queen00(7 June 2011)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
それぞれの部屋に、豪華なクリスタルグラスのシャンデリアがあります。現在ティールームと呼ばれる17.5m×12mのこの部屋は、当時はコンサートや休憩の場として使用されていました。当時は水曜の夜に定期演奏会が開かれ、世界中から一流の音楽家が集まって演奏していたそうです。 |
カルテッドを演奏するハイドン(1790年以前) | その中にはオーストリアの著名な作曲家ハイドンなどもいました。 クリスタルグラスのシャンデリアが音楽家たちの頭上に描かれており、豪華な照明が当時のラグジュアリーの象徴だったことが伝わってきます。 |
アセンブリールームズ 舞踏会場 |
アセンブリー・ルームズのメインの舞踏会場『ジョージアン・ルームズ』は30m×12mの広さを誇り、イギリスのみならずヨーロッパ各地から王侯貴族や富裕層が集いました。最も多い時は、ダンスを踊るためのゲスト1,200名で混み合っていたそうです。1つのシャンデリアでは到底足らず、たくさんの明かりで紳士淑女や身につけた美しいジュエリーを惹き立てていました。 クリスタルグラスは単なるロッククリスタルの代用品ではなく、新たな文化を創り出しました。ワイングラスなどの食器類にとどまらず、シャンデリアや花瓶など、その魅力に基づく莫大な需要で一大産業となったのです。 |
2-1-7. クリスタルグラス産業と王侯貴族
現代まで存続するメーカーは少ないですが、イギリスはもちろん世界各国にクリスタルグラス・メーカーができ、独自の技術で上流階級を魅了してきました。 |
『エジンバラの星』シリーズ(エジンバラ・クリスタル 1955年頃) "Star Collection" ©TerriersFan at English Wikipedia(2 August 2006)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
これは1820年頃にスコットランドで創業したエジンバラ・クリスタルの、1955年頃の『エジンバラの星』シリーズです。ベルもあります。硬質なクリスタルグラスは良い音が響きます。Genが鳴らすのが上手で、ワイングラスでも「キーン」と美しい音を聞くことができます。水を入れたグラスのフチで音楽を奏でる、『グラスハープ』も美しい音が出ますよね♪ 残念ながらエジンバラ・クリスタルは2006年に経営難から管理に入り、2007年にウォーターフォード・ウェッジウッドに買収されてブランド名のみになりました。その後さらにこの会社がKPSキャピタル・パートナーズに買収され、2009年にブランドは廃止となりました。 |
照宮成子内親王と盛厚王の結婚式(1943年) | 現代のイギリスにも王室御用達のクリスタルグラス・メーカーはありますが、日本事例の方がイメージしやすいかもしれないのでご紹介しておきます。 日本初のクリスタルグラス専門工場を作ったのは、1934(昭和9)年に各務クリスタル製作所として創業したカガミクリスタルです。赤坂迎賓館や在外公館に多数の納入実績があります。 1943年、昭和天皇の第一皇女である成子内親王が、東久邇宮の盛淳王に嫁いだ際に調度品を納め、皇室御用達となりました。 1960年の吹上御所の造営ではクリスタル建材を施工し、1968年には吹上御所の新宮殿に食器やシャンデリアを納入しています。 |
ダーティントン・クリスタルの吹きガラス工房(2007年) "Glass throwers at Dartington Drystak" ©Paul Turner from West Sussex(13 June 2007, 14:02)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
これはイギリスで最も古くて有名なクリスタルグラス・メーカーの1つ、ロイヤル・ブライアリーのブランドを生産するダーティントン・クリスタルの工房です。ロイヤル・ブライアリー自体は、家族経営で1776 年に創業しました。経営環境の変化で、まるでゾンビのように名前だけ存続するブランドが存在するのはジュエリー業界に限りません。一応ロイヤル・ブライアリーは王室御用達です。 ダーティントン・クリスタルはイギリスに残る数少ないクリスタルグラスの大規模生産社として、150名の従業員が働いています。 |
ガラスの靴(ダーティントン・クリスタル 1988年) "Glass throwers at Dartington Drystak" ©Paul Turner from West Sussex(13 June 2007, 14:02)/Adapted/CC BY-SA 2.0 |
これはダーティントン・クリスタルの工房で1988年に制作されたガラスの靴です。イギリスのオリンピック招致の舞踏会に出席するアン王女を記念して、招致委員会からプリマス市に贈られたものです。ダーティントン・クリスタルはこのほか、クリスタルグラスの優勝杯なども制作しています。 品質の良い素材に、高度な技術があってこそです。イギリスも戦前と戦後では貴族の環境も大きく変化しており、王侯貴族が文化や経済を牽引できる時代ではなくなりました。日本も1947年に貴族が廃止されましたし、先の東久邇宮も1947年に皇籍離脱しています。 王侯貴族の時代は上流階級からの需要で高級品ビジネスが成立し、切磋琢磨して技術やデザインも進化しました。優れていれば、職人などのメーカー側も相応のお金や名声が手に入りました。誇りを持って生き生きと仕事ができたのです。 |
旧・勲五等双光旭日章 "The Order of the Rising Sun, Gold and Silver Rays" ©内閣府(1 July 2011)/Adapted/CC BY 4.0 |
カガミクリスタルの創業者・各務鑛三(かがみこうぞう)もガラス工芸を美術品の領域にまで高めた功績により日本藝術院賞を受賞しています。 他、1932年に13回帝展に初入選、1934年に15回帝展で特選受賞、1937年にパリ万国博覧会で銀賞受賞、1939年にニューヨーク万国博覧会で名誉賞受賞、1953年に芸術選奨文部大臣賞受賞、1958年にブリュッセル万国博覧会グランプリ受賞、1960年に日本芸術院賞受賞、1962年に黄綬褒章受章、1966年に勲五等双光旭日章受章、1981年に紺綬褒章受章しています。 箔付されて名声を高めれば有力なコネも増え、ビジネスもうまくいってお金も手に入ります。 |
戦後はヨーロッパもそのような時代ではなくなってしまいましたが、今回の宝物が作られた時代は第一次世界大戦よりも前で、ヨーロッパの王侯貴族が精力的に政治・外交・文化を主導していました。 美しいクリスタルグラスのシャンデリア、食器、調度品などで彩られた社交界が活況の時代に、この宝物は作られました。 |
2-2. センスが分かる美しい立体フォルム
2-2-1. 少しのバランスで印象が変化するハート型
ハート型は定番でありながら、たとえ2次元の平面で描いたとしても正解の比率がありません。立体の場合はさらに複雑で、無限に可能性があります。ちょっとしたバランスによって、印象が大きく変わる面白さがります。 |
上部中央をどれくらい凹ませるかでも、受ける印象は変わります。縦長だとスタイリッシュな印象に、横長だと甘い雰囲気が強くなります。今回の宝物はポッテリ感がある可愛らしいフォルムですが、透明な素材だからこそ甘くなりすぎません。センスの良さを感じる、絶妙なバランス加減です♪透明でない素材でこのフォルムだったら、子供っぽい雰囲気だったでしょう。 |
2-2-2. 絶妙なカボションカット
無色透明な石のカット
カボションカット | ファセットカット | |||
透明な素材は、カットで雰囲気が大きく変化します。ファセトカットに関しては特に昔から試行錯誤されており、直感的に「美しい!」と感じられる大体のパターンは分かっています。そうは言っても、とても奥深いことは、こうして並べてみるとお分かりいただけると思います。 |
ハート型のカット
カボションカット・ハート | ファセットカット・ハート | |||
ハート型のカットに限定しても、かなり奥深いです。ファセットの有無、縦横比のみならず高さも勘案した設計をしなければなりません。色石の場合は厚みによって、色の濃度が変わります。 |
絵画などと異なり、実際に身につけて楽しむジュエリーは立体フォルムが重要です。カボションカットも斜めから見た際に、どのようなカットを施しているのかでかなり雰囲気が変わります。美しいと感じさせるには、想像以上にセンスが必要です。 |
『アール・クレール』 ロッククリスタル ロケット・ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
ハート型ムーンストーン ペンダント アメリカ? 1910年頃 SOLD |
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ロッククリスタルの宝物と、ムーンストーンの宝物を比較しても個性が異なります。どちらも透明な石ですが、ムーンストーンはより美しいシラーを惹き出すために、特に厚みを持たせてあります。ロッククリスタルのハートも厚みがあって、どの角度から見ても美しいです。 どちらも後ろ側はフラットで、まさに1つしか入手できない、大きくて上質な稀少宝石を最大限に生かすデザインです。 |
今回の宝物の場合はクリスタルグラスだからこそ、表裏ともに同じ立体フォルムのロケットにしやすいです。裏側までコロンとしたフォルムなので、より立体感を感じることができます。 |
ふっくらとした絶妙なフォルムです。吹きガラスでこの複雑な形にはできないので、宝石と同様の方法でカットしています。 |
それは裏面を見ると明らかです。左は光を透過した状態、右は光を面反射した状態です。フラットに整えてあることが分かります。吹きガラスだと曲面になりますから、丹念に磨いてフラットにしたと判断できます。 量産品の場合は型を使う方が安くなるので、型を作ります。ただ、マスターとなる型を制作するのに高度な技術と相応の費用がかかります。今回は明らかにオーダーの特注品なので、型ではなく1点物として磨いて仕上げたと推測します。 |
【参考イメージ】ガラスの表面状態による見え方の違い 【引用】KGPress HP / ガラスについて ©KODAMA GLASS 株式会社コダマガラス |
ハート型にするために、粗いヤスリで削って形を整えます。こうしてラフカットした後は表面が粗いため、透明度が低いです。透明度を上げるためには、目の細かいヤスリで表面を整える必要があります。一度に細かいヤスリで整えるのは不可能で、徐々に番手を細かくしていきます。目が細かいほど透明度が上がりますが、時間と手間も増大するため、どこまでやるかはオーダー主や職人次第です。 |
表面と裏面、どちらも完璧に仕上げなければここまでの透明度は出ません。この高い透明度こそ、クリスタルグラスの質と共に、職人の高度な技術の証なのです。 |
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極端なフォルムは表現しやすいです。このような緩やかなフォルムこそ、カット職人のセンスが試されます。ハートの中心部の窪みも、巧みな角度で表現されています♪ |
2-3. 輝く極小オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド
アンティークジュエリーは、その幅の広さに驚きます。黎明期からこの仕事をするGenも、「40年以上やっていても、まだ見たことのないものが出てくる!」と感動しています。 40年以上、ロンドンで卸をするディーラーは数だけ見ればGen以上に多くのものを見ていますが、やはり今もなお見たことがないものが出てくるそうです。 それ故に、知的なものを好む人ほどアンティークジュエリーの虜になります。ジュエリーと言えば宝石と直結させる現代人も多いですが、実はガラスのジュエリーもいくつか存在します。 |
2-3-1. アーティスティックなガラスのジュエリー
『平和のしるし』 ローマンモザイク デミパリュール イタリア 1860年頃 ¥2,030,000-(税込10%) |
『バラ窓のマリア』 VIRGO作 プリカジュール・エナメル メダイ ペンダント フランス 1890〜1900年頃 SOLD |
ローマンモザイクは、色ガラスを使ったアート系ジュエリーです。小さなジュエリーでステンドグラスの美しさを再現するために生み出された、プリカジュール・エナメルもガラスです。まあ、エナメル全般がガラスのジュエリーと言えます。 芸術系ジュエリーはガラスによる作品そのものが主役なので、派手な宝石と組み合わせることはありません。しかしながら高級品として作られたものは、名脇役としての宝石も相応の質のものが使用されますし、セッティングもゴールドやプラチナなどの貴金属で行われ、作りもハイジュエリーに見合うものです。 |
2-3-2. 素材が主役の高級グラス・ジュエリー
ジャルディネッティ ブリストルグラス ロケットペンダント フランス or イギリス 1800年頃 SOLD |
パープル ブリストルグラス モーニング リング イギリス 1780年 SOLD |
ブリストルグラス ブローチ イギリス 19世紀初期 SOLD |
18世紀後期に発明された美しい色彩のブリストルグラスも、有名メーカーとなったラズルス&アイザック・ヤコブが王室の認可を受け、ヨーロッパ貴族のために様々な製品を作りました。 最も多いのは、高貴なブルーが印象的なブルー・グラスです。特に初期の作品は素材としてのグラスが主役ではあるものの、現代ジュエリーのように素材頼りの簡素なデザインと作りにはなりません。 |
ブリストルグラス&ダイヤモンド ピアス フランス or イギリス 1850年頃 SOLD |
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『物語の少女』 ブリストルグラス ロケットペンダント フランス 1860年頃 SOLD |
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人工的に作り出せるガラスでなければ出来ないサイズと形状であったり、加工しやすいガラスでなければ困難な作りなど、ジュエリーとして価値あるものとして作られています。アンティークの高級グラス・ジュエリーに共通する特徴です。 |
ヨーロッパの大美術館級のミュージアムピース | |
ジョージアン ブリストルグラス モーニングリング イギリス 18世紀後期 SOLD |
【引用】V&A Museum © Victoria and Albert Museum, London/Adapted |
ちなみに左は以前、Genがルネサンスでご紹介したブリストルグラスの名品です。 私が初めてロンドンのV&A美術館に足を運んだ際、同じものがあって驚いた宝物でもあります。モーニングジュエリーは形見分けで同じものが複数制作されることもあり、1つは日本のお客様へ、1つは大美術館の所蔵品となったわけです。 私たちがヨーロッパの大美術館級のミュージアムピースを扱っていることは間違いないのです。 |
2-3-3. ジュエリーではない現代のガラスのアクセサリー
スワロフスキー社のアクセサリー
【参考】ブルー・ロジウムめっき・ピアス(¥47,960)2021.5.11現在 【引用】SWAROVSKI / Palace Chandelier Pierced Earrings ©Swarovski |
グリーン&ホワイト・クリスタルのロジウムメッキ・シルバー・リング(スワロフスキー 現代) 【引用】SWAROVSKI / Attract Cocktail Ring Green, Rhodium plated ©Swarovski |
現代はジュエリーとアクセサリーの境界が曖昧ですが、基本的には素材で判断できます。見栄えする凄そうなクリスタルグラスのアクセサリーも多いですが、価値のある本物の宝石や貴金属を組み合わせることはありません。ファセット・カットしてダイヤモンドに見えるものでも、クリスタルグラスです。ダイヤモンドとは輝きが全く異なるので、本物のダイヤモンドの輝きを知っていればすぐに分かります。金属のメッキです。貴金属は使いません。だから安いですが、ジュエリーとしての価値はありません。コスチューム・ジュエリーと同じで、お金をかけず気軽にオシャレを楽しむためのものです。 |
バカラ社のアクセサリー
トレフル ピンブローチ ¥45,100-(2024.7現在)金めっき 【引用】Baccarat / トレフル ピンブローチ ©2024 Baccarat |
クロワゼ 金めっきリング ¥55,000-(2024.7現在) 【引用】Baccarat / CROISÉ GOLD PLATED RING ©2024 Baccarat |
エクラ ドゥ タリランド アンプルール リング ¥346,500〜396,000-(2024.7現在)【引用】Baccarat / エクラ ドゥ タリランド アンプルール リング ©2024 Baccarat |
スワロフスキーはアクセサリーとして良心的な価格に感じますが、バカラはブランド価格が凄いです。ガラスとメッキとは思えないような高額設定です。クリスタルグラスはダイヤモンドのような金剛光沢は出ないので、中央のリングのようなサイズでこのカットというのは、全く素材を活かせていません。一般の方にもパチモンにしか見えないと思うので、かえってマイナスに感じます。 右のリングは40万円ほどします。詳しい説明がありませんでしたが、他の商品の情報からシルバー(ロジウムめっき?)と推測します。プラチナやホワイトゴールドなら逆に安すぎますし、商品説明でPRしないのは変です。型を使った量産のクリスタルグラスでこの価格はビックリです。超高級アクセサリーですね。ジュエリーではありません。 |
アラフォリ ペンダント | ||
クリア ¥39,600-(2024.7現在) 【引用】Baccarat / アラフォリ ペンダント©2024 Baccarat |
ブラック ¥44,000-(2024.7現在) 【引用】Baccarat / アラフォリ ペンダント©2024 Baccarat |
レッド ¥44,000-(2024.7現在) 【引用】Baccarat / アラフォリ ペンダント©2024 Baccarat |
ハート型のペンダントも販売されていますが、型を使った量産品で、歩留を上げるためにフォルムも単純です。クリアが安いのは、多くの現代人にとっては色がついている方が高そうに見えるからかもしれません。デザインも作りも魅力がなく、ただのガラス塊でしかありません。これなら少し良いグラスを買って、使って楽しむ方が良いように感じます・・。 |
2-3-4. 透明なダイヤモンドとの組み合わせ
この宝物はダイヤモンドとゴールドを使い、素晴らしい作りで完成されたハイジュエリーです。 特徴の1つが、クリスタルグラスの中央にセットされた極小の特別なオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドです。 |
19世紀前半のブリストルグラスのハイジュエリー
19世紀後半の透明なハイジュエリー
英国王室御用達 HENRY TESSIER ロッククリスタル・クロス イギリス 1880年頃 SOLD |
これは1880年頃、英国王室御用達メーカーによって制作されたロッククリスタルのクロスです。 今回の宝物より20年ほど古く、バチカンのエナメルの装飾であったり、蔓と実が全体を覆う華やかな装飾が、装飾の多さを好んだオーソドックスなヨーロピアン・ラグジュアリーを感じさせます。 ロッククリスタルならではの透明な美しさがある一方で、これらの装飾によってモダンな感覚ではなく、ヴィクトリアン・ジュエリーらしさを醸し出しています。 |
透明な素材だけを使ったシンプル・イズ・ベストなデザインは、まさに当時の最先端です。 |
2-3-5. 特別な極小オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンド
大きさのある派手なダイヤモンドと違い、小さくて良いものは価値が分かりにくいものです。 この宝物に使用されたメインのダイヤモンドは、驚くほど上質です。 メインストーンとなる、中央のオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドの方が、脇石のローズカット・ダイヤモンドより遥かに小さいのが、素晴らしいのと清々し過ぎて笑っちゃいます!♪ |
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オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドはこれまでに見たことがない小ささで、肉眼でははっきりカットが分からないほどです。輝き方からオールドヨーロピアンカットかなと感じますが、ここまで小さい石をカットできるのかと同時に疑問が生じるサイズです。 |
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拡大すると、精度良くカットされた極上の1粒であることが分かります。小さいながらも、しっかりと厚みがあります。 |
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クリアな極上ダイヤモンドを使用しており、磨きの仕上げも完璧なので、透明感とダイヤモンド光沢が抜群に美しいです。小さいので、肉眼だと清楚さと華やかさを同時に感じます。 |
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様々な色彩のファイアも出ます♪ ここまで小さなオールドヨーロピアンカットは、特別にカットしてもらわなくては入手は不可能です。 |
アムステルダムのダイヤモンドカットの加工場(19世紀) | ジュエリーを作る職人と、宝石をカットする職人や工房は別です。 硬いダイヤモンドのカットは難易度が高いため、職人によって腕の良し悪しがはっきり出る、専門性の高い作業です。 |
カリナンに第一刀を振り下ろすアイザック・ジョセフ・アッシャー(1908年) | だからこそ有名なダイヤモンド・カット職人が昔は存在し、とっておきの石や特別なカットを所望する場合は、お金がかかったとしても信頼できる職人にカットを依頼したのです。 通常、ジュエリーのオーダー主が、ジュエラーとカット職人のそれぞれ依頼するようなことはありません。ダイヤモンドは原石をカットした後のルースの状態で、ジュエラーが既製品として仕入れます。 既製のルースを使わず、カットから特別オーダーするというのは相当なこだわりを持って作られている証です。 |
2-3-6. シングルカット・ダイヤモンドが示す特別品
通常、極小のダイヤモンドはローズカットにします。極小の石をオールドヨーロピアンカットにする場合、通常通りの面数だとファセットが細かくなり、輝きが弱くなってしまいます。透明感も薄れます。このデメリットを防止するために考案されたのが、簡略化したシングルカットです。 |
シングルカット(中央の石) |
通常のオールドヨーロピアンカット |
どちらも透明度の高い最上質のダイヤモンドを使用してるので、感覚的にも分かりやすいと思います。左の宝物は、中央がシングルカット・ダイヤモンドです。サイズによって、最適なカットは異なることがよく分かります。 | ||
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『MIRACLE』 ライトニングリッジ産ブラック・オパール ペンダント イギリス 1905-1915年 ¥10,000,000-(税込10%) |
極小の石をシングルカットにする場合、ローズカットより遥かに高度な技術と手間がかかります。 ほとんどの人は、高くなるくらいならローズカットで良いと考えます。また、大きい石ほど価値があると考える人の方が多いので、極小の石をわざわざ相応のお金をかけてシングルカットにする需要はほぼありません。材料費より職人の高度な技術に莫大なお金がかかる、まさに『石の細工物』です。 大半の人には違いが分かりませんが、小さなシングルカット・ダイヤモンドの輝き方や透明感は、ローズカットや大きさのあるオールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドとは確実に異なります。 左の宝物は、極小の石まで全てシングルカット・ダイヤモンドです。ローズカットは使用していません。 |
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繊細な輝きを放つ奇跡のブラックオパールに対し、大きなオールドヨーロピアンカットでは脇石として輝きが派手すぎます。ローズカットでは、華やかさが足りないと考えたのでしょう。ダイヤモンドから全てスペシャル・オーダー品です。メインストーンの価値に相応しい、脇石と作りです。 |
『エメラルド・リボン』 天然真珠 ネックレス イギリス 1920年頃 SOLD |
シングルカットはハイジュエリーでも殆ど目にすることはありません。 最高級品なだけでは不十分で、特に美意識の高い人物のための宝物のみ見つけることができます。 左の宝物は、高級品の中でも目を見張るほど質の良い天然真珠が使用された最高級品でした。 |
現代の養殖真珠のネックレスは、何百万円もする高価なものであっても、見るに耐えないクラスプが当たり前だったりします。買う方も、「どうせ後ろ側だし、見えないし。」という程度の美意識なのでしょう。 しかし、この宝物は後ろ側を見せたいほど美しく、手の込んだクラスプがセットされていました。8石もの上質なシングルカット・ダイヤモンドがセットされた特注品です♪ |
『Sweet Emerald』 オレンジピールカット・エメラルド リング フランス 1920年頃 SOLD |
コンテスト・ジュエリーの可能性が高い、この宝物も脇石にシングルカット・ダイヤモンドを多用しています。主役のオレンジピールカット・エメラルドを惹き立てる、透明度の高い瑞々しい輝きが印象に残っています。 |
これまでの宝物からも確信します。シングルカット・ダイヤモンドは、ずば抜けた美意識を持つ人物がお金をかけて作ってもらった特注品の証です。 今回はシングルカット・ダイヤモンドの中でも特に極小サイズなので、透明感よりも華やかな煌めきを感じます。 極小ローズカットだった場合、一瞬の閃光となります。常に輝きを感じる、このような雰囲気になっていません。 |
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接写レンズを駆使しても限界のサイズでした。カットも神技ですし、精密にフレームを作ってクリスタルグラスにセットするのも神技です!!! 他に類を見ない宝物です。一体どれくらいの費用をかけてオーダーしたのか、あまりにも他のジュエリーと違い過ぎて、想像もできません。ため息がでるほど素晴らしいです。 |
2-4. ソーダガラスを使った特別な宝物
このクラスのジュエリーでなくても、通常はアクセサリーにもジュエリーにもソーダガラスは使いません。他の部分へのお金のかけ方から、お金がなくてソーダガラスを使用したとはとても思えませんでした。このような場合は石が取れて、不適切な修理がなされた可能性を疑うのですが、セッティングもしっかりしており、当時のオリジナルの状態としか考えられません。 どういうことなのか考えて、一番しっくり来るのが、オーダー主がクリスタルグラス製造の経営者一族だった可能性です。 |
撮影用の強いライトを当てると差がはっきり出てしまいますが、スマートフォンのカメラで撮った太陽光の画像だと、ソーダガラスでも案外ファセットが輝いてあまり違和感がありません。 クローズド・セッティングなので、裏側に敷いた箔が変色していたり、ローズカットのカットによってはこの程度もあるだろうと思えるくらいです。 |
撮影用のライトだと、ダイヤモンドの金剛光沢とは輝きの強さが全く異なるので、ダイヤモンドではないと判断できます。 それではクリスタルグラスやロッククリスタルとはどう区別するのかと言うと、青みがかかった独特の色彩です。 |
【参考】ソーダガラス 【引用】安中特殊硝子製作所I /ソーダガラスとは?特徴や用途について © 2021 Annaka special glass Inc. |
ソーダガラスは古くから存在し、今でも最も一般的で安価なガラスです。 板ガラスでも、よく目にします。青みがあり、横からだと緑色にも見えます。古い時代の日本は青と緑の区別がなかったこともあり、『青板』と呼ぶことも多いそうです。 |
意識して見ると、左のガラスは少し青みを感じる瞬間があります。 |
異なる素材を使いながらも、同じようにカットして同じようにセットしているので、素材自体の性質の違いが比較できます。ダイヤモンド、クリスタルグラス、ソーダガラスという、3種類の透明な素材を見比べることができる宝物です。 |
ソーダガラスも思いのほか煌めきますが、やはりダイヤモンドの強烈な照り艶とは異なります。 色や質感も、クリスタルグラスと異なります。 |
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ロッククリスタルに遜色ないほどの、透明な美しさを誇るクリスタルグラス。 |
この宝物の真の主役は、美しいクリスタルグラスであろうと強く感じます。 クリスタルグラス・メーカーにとって、美しいクリスタルグラスは誇りであり、自慢の商品でもあります。たとえば御曹司が、婚約者の女性にプレゼントするためにオーダーしたとすれば納得ができます。 |
結婚した場合、女性はクリスタルグラス・メーカーの経営者一族になりますし、将来的には社長夫人です。クリスタルグラスと通常のソーダガラスの違いについても、熟知しておくべきです。 ただ、クリスタルグラスだけの普通のジュエリーだと、高名なメーカーの社長夫人が持つに相応しい高級品とは言えません。だからこそお金と技術をかけ、絶大な美意識に基づいて作られたことが分かるデザインと作りにしたのでしょう。それが精密なハート型ロケットであり、極小オールドヨーロピアンカット・ダイヤモンドなのです。そうだとすれば、ソーダガラスを用いた理由が説明できます。知的にも、抜群のセンスを感じる宝物です♪ |
3. 美意識の高さが分かる作りの良さ
3-1. 蝶番が視認できないほど精密なロケット・フレーム
ロケットになっていない、デザインだけのものもあったりします。 この宝物はハート型のロケットで、抜群に作りが良いのも魅力的です♪ |
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3-1-1. ロケットの作りで分かる宝物の良し悪し
最上質の蝶番
ロケットやカードケースなど、開閉機構を備えた宝物の良し悪しを判断する際に重要なのが、ピタッと綺麗に閉じるか、そして見た目の美しさです。 これは、全ての作りが優れた抜群の宝物ですが、Genは特に蝶番にも感動していました。 |
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『豊穣のストライプ』 2カラーゴールド ロケットペンダント フランス 1880年頃 SOLD |
「ロケットの蝶番が見えない、隙間ない完璧な細工がこれまた素晴らしい!!♪」 |
一般的な蝶番
【参考】9ctゴールド・ロケット・ペンダント | 【参考】9ctゴールド・ロケット・ペンダント |
一般的な蝶番は外付けです。その中で作りの良し悪しがあります。これらはHERITAGEではお取り扱いしないクラスですが、もっと安物はシルバー製、さらに安物はそれ以外のメタル製なので、庶民向けに作られたアンティークジュエリーの中ではそこそこの高級品です。ただし摩耗がなさすぎるので、本物のアンティークではなくアンティーク風かもしれません。 |
【参考】金メッキ・ロケット・ペンダント | 【参考】10Kゴールド・ロケット・ペンダント |
メッキ製と無垢の10Kゴールド製を比較すると、蝶番の作りの違いはお分かりいただけると思います。現代の量産品だと、安物でも品質のバラツキを感じることは少ないですが、ハンドメイドの時代は如実に職人の腕や雑さ加減が現れました。安物には目立ってしまうか否かの美意識などありませんし、時間をかけた丁寧な作業もできませんから、作りも雑になってしまうのです。 |
蝶番を隠す美意識の高い宝物
『Geometric Art』 ゴールド ロケット・ペンダント イギリス 1840年頃 SOLD |
【参考】9ctゴールド・ロケット・ペンダント |
デザインによっては気になりませんが、円形などのデザインだと蝶番が目立ちやすく、それが我慢できない美意識の人も存在します。 左の宝物は蝶番が見えませんが、特注のロケット・ペンダントです。 |
外付けタイプの蝶番ですが、少し奥まった位置に設計することで、正面からは見えないようにデザインされています。 |
干渉せずスムーズに開閉できなければなりません。機能性に加えて美観も整えようとすると、高度な設計技術と職人技を要します。 |
3-1-2. 視認できないほど精密な蝶番
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この宝物はハート型が印象的ですが、それは蝶番が見えぬよう、意識してデザインされているからこそです。 |
肉眼だと、蝶番がはっきり分からないほど精密に作られています。 |
注目しておきたいのが、今回の宝物はフラットではなく曲面のフレームで実現していることです。 |
クリスタルグラスのハート型に沿うよう、緩やかな曲面でゴールドのフレームが作られています。ハート型自体が2次元的に見ても複雑な形状です。そこに、これだけ美しくフィットさせるのは超難度の神技です。だからこそ類似の宝物がないわけですが、一般には良さや凄さが分かりにくい細工です。地味な部分によくこれだけの技術と手間をかけたものだと関心しますし、その美意識の高さをとても嬉しく感じます♪ |
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ロケットはピタッと閉じますし、曲面に配置された蝶番も内部に綺麗に収まっており、存在感を感じません。驚異的な作りは、この宝物が一流の職人にオーダーされたことを示しています。 |
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下からのアングルです。蝶番が完璧に収まっているからこそ、正面から見た時に綺麗なハート型に見えます。 |
蝶番は干渉せずしっかりと開くので、ロケットとしての使い勝手も良いです。適当に作っても、こうはなりません。しっかりと構造計算された結果であり、試作を重ねて実現させたものです。 |
ゴールドのフレームに厚みがあるので、コロンとした可愛らしさと、ロケットとしての耐久性がしっかり備わっています。 見事な細工です♪ |
3-2. 特別なハンドメイド・チェーン&キー
3-2-1. 上質なハンドメイド・チェーン
パドロック単品でも成立しますが、チェーンで鍵を付属させたこだわりがグッときます♪ 案外、気軽なことではありません。だからこそ、このような宝物は滅多に出逢えないのです。 ペンダントを下げたチェーンも、アンティークのハンドメイド・チェーンです。 鍵を下げたチェーンと比較すると、コマの大きさが全く異なることが分かります。つまり、よくあるペンダント用の既製品ではなく、この宝物専用に制作したチェーンです。 |
『ゴールド・オーガンジー』 ペリドット&ホワイト・エナメル ネックレス イギリス 1900年頃 ¥1,000,000-(税込10%) |
ペンダントのデザインの一部にチェーンを使う場合、ペンダントを下げるためのチェーンだとコマが大きすぎて、スカスカの印象になり全体のバランスが取れません。 だから雰囲気に合うようにチェーンもデザインし、専用で制作します。 緻密なチェーンに見えるためには、通常の半分かそれ以下のサイズのコマを繋いでいく必要があります。コマが小さいほど、同じ長さのチェーンでも必要なコマ数が多くなります。 材料費よりも、高度な技術や手間にかかる費用が遥かに多くなります。 こんな小さなコマを1つ1つ精密に蝋付していくなんて、想像するだけでも大変な作業です。 だから、専用のチェーンを使っている宝物は、間違いなく美意識の高い高級オーダー品と言えるのです。 |
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この宝物で驚くのは、通常のシンプルな小豆チェーンではないことです、1つ1つのコマが、単なる板状のゴールドを輪っかにしたものではなく、丸みをつけた板を輪にしていることです。 |
通常の小豆チェーンの製法
同じ"チェーン"でも、ペンダントを下げているような小豆チェーンと、宝物に使用されているような丸みを帯びたチェーンでは製法が全く異なります。 通常の小豆チェーンは、ゴールドのワイヤーで制作します。 |
ワイヤーを細くする原理 "Wiredrawing" ©Eyrian (talk I contribs)(05:32, 26 January 2007)/Adapted/CC BY-SA 3.0 |
叩いて鍛えたゴールドの板を細長く切断し、小さな孔を通しながら細くしていきます。 一度に細くすることはできません。 |
金属の細いワイヤーを作成する道具 |
徐々に通す孔を小さくし、目的の細さを目指します。均等な力と速度で引いていかないと質の良いワイヤーにはならず、高度な技術と根気を要する作業です。 そうしてできた黄金のワイヤーを均一な長さに切断し、1つ1つ蝋付していくのが小豆チェーンです。 |
丸みを帯びたチェーンの製法
丸みを帯びたチェーンの場合、叩いて鍛えながら薄くした黄金の板を細くカットし、さらに叩くなどして圧力を加えて丸みを帯びさせます。それをカットし、精密に蝋付していきます。 |
フラットな板状なら蝋付も簡単ですが、丸みを帯びていると、ただでさえ細かい作業がさらに大変です。しかし、丸みを付けることでかなり強度を上げることができます。ゴールドを使う量が同じで重量が同じでも、かけた技術と手間によって引き出せる性能は大きいです。 |
丸みを帯びたチェーンのメリット1. 強度
懐中時計付きシャトレーン 英国王室御用達 Rundell & Bridge社 1790年頃 SOLD |
だからこそ、高級ウォッチチェーンなどにも使用されてきました。 |
『ステータス』 ゴールド ウォッチチェーン イギリス 19世紀後期 SOLD |
古い時代、懐中時計は男性用のステータス・アイテムでした。重量があり、しかも非常に高価な精密機械を下げるために、きちんとした耐久性が必要です。チェーンが切れて時計が落ちたら泣くにも泣けませんし、時計だけお金をかけて、ウォッチチェーンがみすぼらしいと美意識や財力を疑われます。 |
丸みを帯びたチェーンのメリット2. たっぷり感
『ジョージアンの女王』 ジョージアン ロング ゴールドチェーン イギリス 1820〜1830年頃 SOLD |
丸みを帯びたチェーンは、同じ重量でも、よりゴールドのたっぷり感が出せるメリットがあります。 19世紀初期のジョージアンのイギリスで、金価格が史上類を見ないほど爆騰し、ゴールドのロングチェーンが高貴な女性のステータスの象徴となった時代がありました。 少ない量でもゴールドをなるべく多く感じさせるために、技術や手間をかけてでもこのような作りにしたのです。 |
美意識の高い稀有なジュエリー
丸みを帯びたチェーンは高度な技術と手間がかかり、その分だけ費用がかかります。ただ、その価値が誰にでも理解できるものではないため、よほどの意思がなければ使用されることはありません。 男性用のステータス・ジュエリーとして、強度とズッシリ感を必要とされる場合が1つです。女性用だと、ジョージアンのロングチェーンに、軽やかな着け心地とタップリ感の両立が好まれて使用されました。 1848年のカリフォルニアのゴールドラッシュによって金価格が暴落すると、以前の金価格を知る上流階級にとっては、ゴールドそのものが以前ほどステータスの象徴とはならなくなっていきました。だから、19世紀後期の女性用のジュエリーで、丸みを帯びたチェーンが使用されたものはかなり特別です。 |
これはセーフティが丸みを帯びたチェーンでした。アメジストもさることながら、ブレスレット本体のスネーク・チェーンがオリジナリティ溢れる独創的な作りで、全体的な作りから見てコンテストに出展するために制作された可能性が高いです。 |
神技の職人が特にプライドをかけたのが本体のスネーク・チェーンです。セーフティに小豆チェーンを合わせると、バランス的に貧相な雰囲気が出てしまいます。丸みを帯びたチェーンは黄金の密度を高く感じるので、このブレスレットにピッタリです。 |
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これも恐らくコンテスト・ジュエリーとして制作された宝物です。天然真珠は軽いので、強度があるチェーンにする必要はありませんが、丸みを帯びたチェーンを使用しています。揺れ方が目を見張るほど美しく、精緻な作りでした。全体のバランスを見ると、相応の存在感を持たせるためには丸みを帯びたチェーンが必要がったことが分かります。 |
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実際の大きさと出来栄えを考えると、具現化した職人の技術に驚きます!この透明な宝物への思い入れが、付属のチェーン1つからも伝わってきます。誰が使うのか分からない既製品では、絶対にあり得ないこだわりです!♪ |
3-2-2. 心の開くためのハンドメイドの黄金の鍵
開閉式の宝物だからこそ、黄金の鍵が備わっているのはグッときます。 なくてもデザイン的には十分にオシャレですが、あることで魅力が何十倍も増します♪ チェーンによって揺れる構造なので、ジュエリーとして使う際も非常に魅力的です。美しく揺れる構造へのこだわりの強さも、この時代の高級品らしいと感じます♪♪ |
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シンプルな構造ですが、センス良く丁寧に作られています。 ハンドメイドのゴールドのワイヤーを巧みに造形し、鍵の部分はゴールドの板を糸鋸で引き、鑢(ヤスリ)で丁寧に整えてあります。 糸鋸で引いただけだとバリが出るので、磨いて仕上げなくてはこのような美しい形にはなりません。 細部まで心が込められた、魅力的な小さな宝物です♪ |
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裏側
裏側も立体的で無駄のない、美しい作りです。透明だからこそ粗があれば目立ちますが、粗があるどころか、自慢したいくらい完璧な出来栄えです!♪ |
着用イメージ
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スケルトンのロケットだからこそ季節や気分、TPOに合わせて変化させるのも楽しそうです♪ |
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透明だからこそ、お召し物の色や柄で雰囲気がガラリと変わるのも良いですね。 |
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軽量なので、お首元にご負担なく着用いただけます。 撮影に使用しているアンティークのゴールド・チェーンは参考商品です。シルクコードをご希望の場合はサービス致します。 |
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強い主張はしないながらも、上質なダイヤモンドが華を添え、高度な技術と手間をかけた、極上の作りに基づく高級感がしっかりあります。眺めているだけでも心を癒してくれる、時を超えた小さな宝物です♪♪ |