No.00366 EQUILIBRIUM |
【色彩の均衡】エメラルド × ホワイト × ゴールド
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【幾何学の均衡】楕円形を縦と横に組み合わせたデザイン |
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透明度が高く、鮮やかで深い色彩の極上エメラルド!♪

濃い白と強い照り艶を持つ、超稀少な楕円形ハーフパール!!
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立体造形の随所から放たれる、格調高い黄金の輝き!♪

ショルダーはシャープペンシルの芯より細い神技の透かし細工
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360度のデザイン! 波型の立体造形×流れる美しい彫金 |
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| 最先端で時代を導く王侯貴族のジャポニズム・リング | |||
| アングロ・ジャパニーズ・スタイル(1851年頃〜1910年代) | アールデコ | ||
イギリス 1860年頃 |
イギリス 1876-1877年 |
![]() イギリス 1876-1877年 |
![]() フランス 1920年代 |
逸品揃いのアングロ・ジャパニーズ・スタイルの中でも、最初期の宝物です。だからこその、オーソドックスなヨーロピアン・ラグジュアリーの雰囲気も色濃いデザインが魅力です!♪ |
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『宝石×デザイン×細工』が三拍子揃った特別な宝物です!♪
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『EQUILIBRIUM』 |
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日本美術の影響が出始める、アングロ・ジャパニーズ・スタイル初期の作品とみられる、幾何学デザインが特徴的なリングです。 |
リングは見えない後ろ側まで徹底してデザインされており、そのこだわりぶりは高級品の中でも類を見ないほどです。デザインにこだわった細工物のリングはたまにありますが、『宝石物』とも呼べるほど宝石が主張するものは非常に珍しいです。宝石、デザイン、作りの三拍子が揃っています!♪ 年代的にはミッド・ヴィクトリアンですが、この時代としては珍しく成金感がありません。大英帝国最盛期ならではのパワフルさと格調の高さがありながら、品の良さや知性もたたえた宝物です。良い宝石を使ったものほどリメイクの対象となるため、この時代のこのようなリングは残っていることが奇跡です。時代を超越したデザインのお陰です。今はミッド・ヴィクトリアンの良いジュエリーもますます出なくなっておりますので、いつかは手に入れたいと考えている方には絶対にお勧めです!♪ |
この宝物のポイント
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1. デザイン性の高いエメラルド・リング
エメラルド・リングは現代ジュエリーの影響でオバサンくさい、あるいは成金っぽいというイメージを持つ方が少なくありません。結果としてエメラルドに興味を持てない人も多くいます。私もその一人でした。 |
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しかしアンティークジュエリーを知ると、エメラルド・リングは実はとても魅力があることに気づきます。 アンティークであっても、市場のほとんどのリングはオーソドックスなデザインです。個性があり、センスの良さが感じられる凝ったデザインには滅多に出逢えません。 |
特に今回の宝物のように、少し年代が古い宝石物は稀少です。合成石や改善処理が発達した現代の宝石は稀少価値がなく、いくらでも安価に新しく用意できるのでリメイクの対象になり得ませんが、アンティークの本物の宝石は稀少価値があります。それ故に、デザインの流行に合わせてリメイクされるのが常でした。 |
『ウロボロス』ジョージアン クッションシェイプ・ダイヤモンド ウロボロス・リング イギリス 19世紀初期 SOLD |
古い宝石物のリングが現代まで残っているのは奇跡です。使用されている宝石が魅力的であればあるほどです。 それでもそのままの姿で存在するリングに共通するのが、普遍性を持つデザインの魅力です。 時代、流行、民族などに影響されることなく全ての人の心を魅了できる、普遍的な強い魅力を持つデザインを持つ宝物だけがこれまでも、これからも愛され続けます。 |
1-1. 天然真珠を組み合わせた個性的なデザイン
Genはリングとピアスを探すのはあまり好きではありません。一般市場はピンからキリまであります。大半は、教養とセンスを併せ持つ上流階級の特注品以外です。そして、そのようなものは似たり寄ったりのデザインで、見ていて面白くありません。意識を集中して一生懸命に探しても、疲弊するだけという場合が圧倒的に多いからです。本当に美しいアンティークジュエリーは心を満たしてくれますが、そうでないものは逆の現象が起きるので、私もよく分かります(笑) |
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だから、このリングを見つけた時はハッとしました。 これほど個性的で美しいデザインのリングは、なかなかお目にかかれるものではありません! |
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鮮やかで深い色彩を持つ、透明度の高いエメラルド。 その脇石に選んだのは、エメラルド・グリーンを惹き立てる純白の天然真珠です。縦長のエメラルドに対し、横長の楕円パールをセットした気の利いたデザインです♪ |
1-1-1. 脇石の選択
エメラルド1石でリングをデザインすることは、王侯貴族のために作られたアンティークジュエリーでは非常に稀です。 |
| エメラルド1石のリング | |
| ジョージアンの凝ったデザイン | 現代のコストカットのためのデザイン |
エメラルド スネーク・リングイギリス 1830年頃 SOLD |
【参考】エメラルド・リング(現代) |
現代はシンプル・イズ・ベストと、コストカットがの目的の簡素なデザインが混同されています。必要なものまで削り落としたデザインからはチープ感が漂うのみで、模造品やアクセサリーと何が違うか誰にも分からない状況です。 |
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王侯貴族のために作られたものだと、エメラルド1石のみの場合はその他の装飾デザインに相当な気を遣います。しかし、ほとんどの場合は脇石も使って総合的にデザインします。 |
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【参考】ギルソンの合成エメラルド・リング(ヴィンテージ) |
エメラルドの場合、合成石であっても完全無欠の完璧な結晶にはなりません。結晶学的に、欠陥が出やすい性質がある鉱物だからです。それ故に現代の基準でもインクリュージョンの有無ではなく、色の良し悪しが評価指標にされています。 |
コロンビア産エメラルドの原石 |
実際、エメラルドの魅力はその色彩にあります。 グリーン系の宝石は各種ありますが、独特の色味は見る者の感覚を強く惹きつけます。 色を魅力とする主役に合わせ、脇石は必然的に、白系のダイヤモンドもしくは天然真珠が選ばれます。 |
1-1-2. エメラルド×脇石ダイヤモンド
『PERFECTION』エメラルド&ダイヤモンド リング イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
過去48年間にお取り扱いした中の傾向で、エメラルドの脇石はダイヤモンドが圧倒的に多いです。 |
『エメラルドの深淵』珠玉のエメラルド リング イギリス 1880年頃 SOLD |
エメラルド リングイギリス? 1880〜1900年頃 SOLD |
『The Beginning』エドワーディアン リング イギリス 1910年頃 SOLD |
『Sweet Emerald』エメラルド リング フランス 1920年頃 SOLD |
アールデコ エメラルド・リングフランス 1920〜1930年頃 SOLD |
アールデコ エメラルド リングフランス 1930年頃 SOLD |
エメラルドのグリーンは、力が強いです。脇役が主役より悪目立ちしたらダメですし、一方で脇役の存在感がなさすぎても主役が惹き立ちません。バランスは重要です。エメラルドに対しては、感覚的にダイヤモンドが相性が良いと感じる人が多かったわけです。 |
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1-1-3. エメラルド×脇石パール
エメラルドのメインストーンに対し脇石にハーフパールを使用したリングは、12年前にご紹介したもう1点しか見つかりませんでした。アップデート前の機材で撮影した画像なので、今となっては色彩や細部の描写が微妙ですが、こちらも粒金や透かしを駆使した特別な宝物です。 |
ヴィクトリアン クラスター リングイギリス 1860年頃 SOLD |
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| よほど特殊な宝物でしか選択されない、ありそうでない組み合わせなのです! |
1-2. エメラルド・グリーン&ホワイトの均衡の美
1-2-1. 天然真珠の脇石としてのエメラルド
エメラルドとハーフパールの組み合わせ自体は、他にも存在します。但しエメラルドは主役ではなく、天然真珠に対しての名脇役という使われ方です。 |
![]() クラスター・リング イギリス 1850年頃 SOLD |
![]() クラスター・リング イギリス 1850年頃 SOLD |
クラスター・リングイギリス 1860年頃 SOLD |
クラスター・リングイギリス 1860年頃 SOLD |
合成石や処理石だらけの現代ジュエリーは、巨大なエメラルドの印象が強いです。質やデザインではなく、ただ石が大きいことだけを喜ぶ人がそれだけ多い証左です。 しかしながら上質なエメラルドは小さくても存在感があり、ポイントとして使うと、気の利いたデザインにできます。逆に言えば、大きさのあるエメラルドに対しては天然真珠が負けてしまうため、脇石として選ばれにくいのです。 |
1-2-2. ハーフパールのジュエリーに見る当時の色彩感覚
19世紀後期、天然真珠の人気の高まりもあってシードパールのジュエリーが大流行しました。上流階級はジュエリーも多種類を所有し、TPOによって使い分けます。夜用のダイヤモンド・ジュエリーに対し、日中用としてシードパールのジュエリーも当時はほぼ必須でした。数が多く作られているからこそ、身分が高い人にとって個性が重要となります。良いものはデザインのみならず、色石を組み合わせる場合はその種類も様々でした。 |
淡い色彩の宝石
これらの宝石もダイヤモンドと組み合わせることは多々ありますが、淡い色彩はシードパールとの相性が良いです。宝石の種類と言うより、それぞれの天然宝石が持つ、唯一無二の色の個性にあわせてデザインされている印象です。 |
| ピンクトルマリン | アメジスト | アクアマリン | シトリン |
『STYLISH PINK』ペンダント イギリス 1900年頃 SOLD |
『慈愛の心』ペンダント イギリス 1880〜1900年 SOLD |
アクアマリン ネックレスイギリス 1890年頃 SOLD |
『社交界の花』ブローチ&ペンダント イギリス 1870年頃 SOLD |
| ペリドット | たとえばアメジストは淡い色から濃い色まで様々あります。『慈愛の心』はピンク色を帯びた優しい色彩のアメジストにあわせて、ダイヤモンドではなくシードパールを選択したのでしょう。 決まり通り、慣例通り、頭デッカチに決めるのはいわゆる"普通の人"です。新しい流行・文化を創る側、ルールを設定する側に存在する王侯貴族の場合、自身の感性で自由に発想します。 淡い色彩の宝石は、感覚的に上品な天然真珠と合わせたくなるのです♪ |
ペリドット&シードパール ネックレスイギリス 1890〜1900年頃 SOLD |
濃い色彩の宝石
濃い色の宝石が組み合わさったシードパールのジュエリーは少ないです。ガーネットやトルコ石はまだ見る機会がありますが、ルビーやサファイアは滅多にありません。ルビーやサファイアの場合、色彩だけでなく煌めきも特に強い宝石なので、ダイヤモンドと組み合わせる場合が多いのです。 |
| ガーネット | ルビー | サファイア | トルコ石 |
『Day's Eye』カボッション リング イギリス 19世紀後期 SOLD |
『生命の躍動』アールヌーヴォー ブローチ イギリス 1900年頃 SOLD |
ペンダントイギリス 1890年頃 SOLD |
『A Lily of the Valley』 |
それでも参考をご紹介できる程度に存在しますが、エメラルドは意外にも1つも見つかりませんでした。 |
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1-2-3. 『グリーン』に対する上流階級の色彩感覚
日本人は色彩感覚が繊細で豊かとされます。特に昔の日本人は『四十八茶百鼠』という言葉がある通り、千を超える色彩を色分けし命名しています。『伝統色』と呼ばれ、日本人の色彩感覚を象徴するものとされます。 |
アトリエに懸かる虹の橋(Genお気に入りの1枚♪) |
日本では7色とされる虹も、民族や文化によって色分けの数は異なります。アメリカやイギリスでは6色、フランスやドイツでは5色とされます。民族によっては2色や3色の場合もあるそうです。但しこれは一般的な話です。 |
『マムルーク朝のムハンマド・アリの城塞モスクと墓を巡る、新カイロと旧カイロの道中』(ルイス・カムフォート・ティファニー 1872年) |
ヨーロッパの上流階級や知的階級から認められるべく尽力した、19世紀後半のアメリカの芸術界では、現代のアメリカからは想像できないほど繊細な色彩の作品が生み出されています。特に、アメリカのアールヌーヴォーの第一人者とされたルイス・カムフォート・ティファニーが有名です。創業者チャールズ・ルイス・ティファニーの息子です。現代のティファニー社は創業者一族とは別物なのでご注意ください。 |
![]() ステンドグラス『マグノリスとアイリス』 (ルイス・カムフォート・ティファニー 1908年) |
ルイスは非常に多才でしたが、特にグラス・アーティストとして才能を発揮しました。1900年のパリ万博では、自身が立ち上げたグラス工房『ティファニー・スタジオ』としてグランプリを受賞し、本社を凌ぐ評価と名声を得てアメリカのアール・ヌーヴォーの第一人者となりました。 ルイスは17世紀頃に失われた技術を再現した、高い技術と研究力も高く評価されています。ジャポニズムでも有名で、山々や菖蒲の葉のグリーンの色彩も、実に多様に表現されています。 |
| ルイス・カムフォート・ティファニーの作品 | |
『睡蓮の葉とワイルド・キャロット』(1895-1898年)メトロポリタン美術館 |
『睡蓮』(1913年)メトロポリタン美術館 |
ヨーロッパの上流階級や知的階級から認められるトップクラスの芸術家ともなれば、同じ『グリーン』でもその色彩はバリエーション豊かです。グラス・アートの睡蓮という、同じモチーフかつ同じジャンルであっても、同じ作家が制作したとは思えないくらい表現が異なります。右の作品は特に色彩表現が豊かです。 |
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『睡蓮』(ルイス・カムフォート・ティファニー 1913年)メトロポリタン美術館 |
睡蓮の葉のフチは、黄色味を帯びています。葉っぱを単色で表現していたら、のっぺりした印象になったはずです。繊細な色彩感覚を持つ人物しかできない表現ですが、ガラスでこれを表現する神技も圧巻です。ヨーロッパの上流階級からも高く評価されたのは納得です。グリーンという色、1つに対してもこれくらいの美意識を持つのがヨーロッパ社交界と言えるのです。 |
1-2-4. エメラルドの特別なグリーン
一言でグリーンと言っても、その色彩は多様です。現代の欧米人の庶民と、古のヨーロッパの上流階級の美的感覚と美意識は全くの別物です。王侯貴族のために作られたアンティークジュエリーは、宝石のグリーンの色彩に合わせて綿密にデザインされています。 |
| ペリドットのハイジュエリー | ||
ブローチ&ペンダントイギリス 1880年頃 SOLD |
ペリドット&シードパール ペンダントイギリス 1900年頃 SOLD |
エドワーディアン ネックレスイギリス 1910年頃 SOLD |
優しいオリーブ・グリーンのペリドットは、ダイヤモンドにも天然真珠にも映えるのでどちらのジュエリーも作られています。 |
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『エメラルドの深淵』珠玉のエメラルド リング イギリス 1880年頃 SOLD |
エメラルドのグリーンの色彩は特別です。 天然真珠では負けてしまうため、明確な意図があって、シードパールと組み合わせたエメラルドのハイジュエリーはほぼ作られていないと言えるのです。 |
1-2-5. 色彩バランスを計算したデザイン
美的感覚が優れたヨーロッパの王侯貴族は、ちぐはぐなものは好みません。一方で他にはないもの、それでいて優れたものは大好きです。通常、色彩の濃い色石とハーフパールを組み合わせることはありません。例外的にそのような組み合わせにした宝物を見ると、使用する天然真珠のサイズと数、照りの強さなどが綿密に計算されていることが解ります。 |
| 色彩の濃い色石×ハーフパールの宝物 | ||
『永久の天然真珠』ジョージアン 天然真珠&ガーネット ペンダント&ブローチ イギリス 19世紀初期 SOLD |
『英国貴族の憧れ』天然真珠&トルコ石 リング イギリス 1876〜1877年 SOLD |
今回の宝物 |
いずれも感覚的に、色彩バランスが取れていると感じられます!♪ 適当に作っても、絶対にこうはなりません。間違いなく綿密に計算されていますが、カットできるダイヤモンドなどと異なり、天然真珠でこれを実現するのは相当に困難です。だから、このような宝物は滅多にありません。 |
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『The Beginning』エドワーディアン リング イギリス 1910年頃 SOLD |
同様の思想でデザインされているエメラルド・ジュエリーとして、『The Beginning』がありました。 極上のエメラルドと特別なプレ・プリンスセスカット・ダイヤモンド、どちらも主役です。惹き立てあっており、見事なバランスです。 特に美的感覚の鋭い人物は、意識的に『均衡』を重視します。 |
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【色彩】透明度の高い鮮やかなエメラルドに対し、強い照り艶を持つ純白の天然真珠 確実に、エメラルド・グリーンとホワイトの均衡の美を意図しています。このような宝物は特に天然真珠の入手困難性から、類似のものがほぼ存在しないと言えます。他には見たことがない、思わずため息が出る美しさです♪ |
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2. 鮮やかな色彩の3石の天然エメラルド
2-1. オイル処理が必要ない透明度の高いエメラルド
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この宝石は全てクローズドセッティングです。裏側から光は抜けませんが、エメラルドは非常に透明度が高いです。 |
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| 特にメインストーンは厚みがあり、実物だと、奥行きのある深いグリーンが美しく感じられます♪ |
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エメラルドカットが映える、とても上質なエメラルドです♪ |
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2-1-1. エメラルドカットの特徴
古のエメラルド&ダイヤモンド ピアススペイン 18世紀 SOLD |
宝石のカットは多種多様ですが、エメラルドの場合は年代を問わずステップカットが定番です。 |
| ステップカット | エメラルドカット |
アールデコ ステップカット・ダイヤモンド リングアメリカ 1930年代 SOLD |
アールデコ エメラルド リングフランス 1930年頃 SOLD |
4隅をカットしたものは、ステップカットの中でも特に『エメラルドカット』と呼ばれます。エメラルドはインクリュージョンが多く、クラックなども発生しやすいことで知られる宝石です。非常に扱いが難しく、「エメラルドを安全にセットできるようになったら、職人として一人前。」と言われるほど、欠けたり割れたりしやすいです。角は特に欠けやすいため、カットしておくのが定番となったのです。 |
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| 低品質のダイヤモンドから分かるカットの特徴 | |
| ブリリアンカット | エメラルドカット |
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エメラルドカットを含むステップカットは、透明感や宝石の色彩を感じやすいという特徴があります。煌めきを多く感じるブリリアンカットに比べて、光を反射するより透過する割合が多いカットだからです。 透明なダイヤモンドはインクリュージョンが丸わかりですね。ブリリアンカットだと誤魔化しがききます(笑) 現代のダイヤモンドと、アンティークの高品質のダイヤモンドの輝きが全く異なると驚かれることがよくあります。酸処理や充填によって一見クリアで綺麗な石に見えても、光の屈折率や散乱には差が生じます。それが、煌めきやファイアの出方の明らかな違いとなります。本物を選ぶことは本当に大事です。安物なんて買っても、銭も夢も失うだけです。 |
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| ブリリアン系カット | エメラルドカット | カボションカット |
エメラルド リングイギリス? 1880〜1900年頃 SOLD |
イギリス 1850〜1860年頃今回の宝物 |
アールデコ エメラルド・リングフランス 1920〜1930年頃 SOLD |
華やかな煌めきも出したい場合はブリリアン系のファセット・カット、純粋に色彩を楽しみたい場合はカボション・カットが選択肢となります。今回の宝物のようなエメラルドカットは、その両方が楽しめるカットです。カットそのものに甲乙はなく、好みと言える領域です。 |
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しかし石の欠点を強調するカットでもあるため、誤魔化しを必要としない上質なエメラルドでなければ、美しく見えないカットです。 |
2-1-2. 低品質の石を誤魔化す現代の天然エメラルド
HERITAGEでは最高級品しかお取り扱いしないため、エメラルドはどれも最高品質です。透明度が高くて当たり前、色が良くて当たり前と思われる方もいらっしゃると思います。 |
『エメラルドの深淵』珠玉のエメラルド リング イギリス 1880年頃 SOLD |
【参考】1930年頃の天然エメラルド・リング |
しかし、普通は右のクラスでも十分に高級品扱いされます。左のHERITAGE品質のエメラルドだと、裏側が透けてリングのアームが見えます。右のエメラルドはインクリュージョンのせいで、透明度は低いです。 |
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| 【参考】通常の高級品とされるエメラルド(ヴィンテージ〜中古) | |
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これらも裏側が透けて見える気配は皆無です。現代は合成エメラルドや模造品が多く出回っており、透明っぽく見えるものもありますが、天然エメラルドで透明度の高いものを見つけるのはかなり困難です。 |
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シダーウッド・オイル |
困難すぎるが故に、エメラルドは古くからオイル処理が存在しました。 今でも一番多いと言われているのが、シダーウッドオイルという天然のオイルを使う方法です。 河原の丸い小石や、御影石やシーグラスなどを水に濡らすと綺麗に見えますよね。それと同じ原理です。 クラックが多いエメラルドは内部だけでなく、表面も粗いです。オイルでならし、綺麗に見せる手法です。 |
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もちろんこのような最高品質のエメラルドには必要ありません。作られてから160年ほどは経過しており、もしオイルが塗られていても酸化するか、剥げて無くなっています。 撮影用に表面をアセトンで拭きました。ネイル用の除光液より強力ですが、びくともしません。それどころか、手で触った油なども取れてピッカピカです(笑) 天然無処理でこの美しさです!!♪ |
オイル含浸処理前と後 【引用】GIA / 宝石の処理について © 2002 - 2021年 Gemological Insitute of America Inc. GIA |
そもそも、オイル含浸によるエンハンスメントが本格化するのは戦後です。庶民がジュエリーを買うようになり、激増する需要に合わせて低品質の石まで使用するようになったからです。 小綺麗になるものですね。ただ、最初はシダーウッドオイルで湿らせる程度のものでも、次第にエスカレートしていくのが現代宝飾業界です。詳細は以前ご紹介しましたが、色付きのオイルを使用したり、近年は真空ポンプやUV硬化樹脂を使うなど詐欺技術も日進月歩で進化しています(笑) 「保管していたエメラルドの色が薄くなった。」などの事例を耳にしますが、あまりにも安いものが、まともであるわけがありません。こういう人は自分が一方的な被害者のごとく話しますが、本人に自覚はなくても実際は市場の破壊者です。まともな業者に対しては買い叩こうとします。自分だけ得をすれば良いという心を詐欺師に見抜かれ、安いだけがウリのパチモンに喜んでお金を払います。詐欺師は潤って事業継続できますし、買い叩かれたまともな業者は市場から淘汰されていきます。その成れの果てが、現代ジュエリー市場です。夢も憧れも皆無な世界です。 |
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| オイル処理装置と真空チャンバーに入った石 【引用】Gemmarum Lapidator / Newgem - Oil Treatment Machine 220V © Gemmarum Lapidator | |
現代のエメラルドはほぼ全て処理石なので、超音波洗浄してはダメだと言われています。石留の爪が緩む可能性もあるのでアンティークジュエリーでも超音波洗浄はお勧めしませんが、現代ジュエリーは本当にダメですね。ちなみに合成エメラルドでもクラックが入りやすいため、オイル含浸処理をすることもあるそうです。もはや何でもありですね。 それほど一般化されているため、オイル含浸処理されていても鑑別書には天然エメラルドと記載されます。よく見ない方、性善説で物事を判断する方は、天然無処理のエメラルドと思い込む可能性が非常に高いです。業界が謳う「消費者保護」なんて名目に過ぎず、ルールや認定機関なんて、業界のために存在するものでしかありません。 実はアンティークジュエリー業界でも認定機関を作る動きはありました。儲け話に嗅覚が優れた人物はどこにでもいます。ただ、日本でアンティークジュエリー市場を創り出したレジェンドGen抜きでやるのは不可能です。断ったGenに、オーサーとして名義だけでも良いからとさらに口説いてきたようですが、Genは固辞しました。権威化や金儲けに役立つのは間違いないですが、興味がないどころかバカみたいで絶対に無理です。そういうわけで、日本のアンティークジュエリー業界にはそのような認定機関がありそうでないのです。 Gen抜きでもできたのではと思う方がいらっしゃるかもしれませんが、多くの方が考える以上にGenの存在感と影響力は大きいです。「認定機関があった方が良かった。」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そんな間抜けなものは絶対にない方が良いです。役立たずどころか害悪にしかなりません!(笑) |
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| 最高品質の石 | 低品質の石 |
『エメラルドの深淵』珠玉のコロンビア産エメラルド&ダイヤモンド リング イギリス 1880年頃 SOLD |
【参考】含浸処理したエメラルド・リング(ヴィンテージ〜中古) |
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内部にインクリュージョンやクラックが多い石は、表面にも亀裂があって粗いです。たとえオイル含浸で表面を滑らかにしても、内部は汚いままです。HERITAGEでご紹介する透明度の高いエメラルドは、内部も表面も綺麗ですからオイル含浸処理など不要です。ありのままで美しいです。現代の技術で誤魔化しても、本物に敵うわけがないのです。たとえ頭デッカチな人は誤魔化せても、アンティークジュエリーに導かれるような感覚の鋭い人には分かってしまいます。HERITAGEのお客様は、私にとって自慢の存在です!♪ |
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オイル含浸処理が必要ないエメラルドは内部の透明度も高く、だからこそ色彩も純粋で鮮やかです。 |
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内部にクラックが多いほど白っぽくなり、エメラルドの色彩も悪くなります。アンティークの最高級品でなければ手に入らない、極上のエメラルドです♪ |
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2-2. 最高級品ならではの統一感ある色彩
2-2-1. 合成石の氾濫による現代人の誤認
【参考】合成コランダム(現代) |
高級ブランド品でも天然石や無処理などの言及がほぼないことからも推測できる通り、現代は当たり前のように合成石が使われています。 科学技術が確立した今では、色彩に関しても現代人の好みに合わせて自由に調合できます。 |
| 全世界規模で販売される現代の量産ジュエリー | ||
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| エメラルド・リング(ティファニー 現代)¥1,617,000-(2020.5現在) 合成や処理については記載なし 【引用】TIFFANY & CO / Tiffany Soleste Ring ©T&CO |
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最高品質な上に質が揃った天然宝石を、全世界の店舗やインターネットで販売できる数、手に入れるのはどれほどあり得ないことかご想像いただけるでしょう。仮に可能だとしたら、その宝石は稀少とは言えないので稀少価値は成立しません。 |
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| 全世界規模で販売される現代の量産ジュエリー | ||
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| 合成エメラルド・リング(京セラ 現代)¥548,000-(2025.3現在) 【引用】Kyocera Jewelry Online Store / エメラルド/ダイヤモンド プラチナリング(クレサンベール/35周年/5月誕生石) © 2023 KYOCERA Corporation |
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高額だから宝石として価値があると思い込む人は多いです。しかし、このような合成石が高額なのは生産コストが原因です。このサイズでこの品質のエメラルドを合成するのは大変なことだそうです。実際、不良品も相応にある中で選んだものでしょうし、研究開発と設備投資を考えれば、この価格で相当数を販売しなければ黒字にならないでしょう。自分がいったい何にお金を払っているのか、考えるのは大事です。アンティークジュエリーの上質な一点ものほど割安だと、改めて実感します。 |
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| 全世界規模で販売される現代の量産ジュエリー | ||
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| 合成エメラルド・リング(京セラ 現代) 【引用】odolly / エメラルドリング(ハーフエタニティ/10石合計1.10カラット/プラチナ/5月誕生石) ©京セラジュエリー通販ショップodolly-オードリー |
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合成石だと色彩を揃えることも容易です。このような工業製品的な現代ジュエリーを見慣れた結果、多くの現代人には「宝石の色が揃っているのが当たり前」という意識が根付いています。それは誤りです。 |
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2-2-2. 同じ色石を複数使用する難しさ
古のエメラルド・ペンダントスペイン 18世紀 SOLD |
合成宝石と異なり、天然の宝石は色彩や透明度、サイズまで多種多様です。 石にもよりますが、同じ種類の宝石を複数デザインしたジュエリーは思いのほか少ないです。 1石1石が入手困難な上、ある程度は品質が揃っていないと美しく見えないからです。 これは8年前にご紹介したペンダントで、Genもこれだけふんだんにエメラルドを使ったペンダントは初めてだそうです。オール・エメラルドです! |
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大変貴重な18世紀のスペインのペンダントです。200年以上も前のものです。小さいエメラルドは、色が薄く感じられることもお分かりいただけると思います。 |
『美しき魂の化身』蝶のブローチ イギリス(推定) 1870年頃 ¥1,600,000-(税込10%) |
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カラー・ストーンは厚みによって色彩の濃さが変わります。 アンティークの最高級品ともなれば、天然宝石の厚みを調整することで、見る者が"同じ色彩"と感じられるようにします。この美しさは適当にやって出せるものではなく、背景には天然石の個性の見極めと共に、高度な技術と手間を注ぎ込んだ職人技があるのです。 |
『La Dame pourpre』アメジスト 一文字リング イギリス 1840〜1850年頃 ¥950,000-(税込10%) |
石が小さくなるほど、濃く鮮やかな色彩を発するのは難しくなります。 個性ある天然の宝石で、大小の色彩を揃えてジュエリーを作るのは想像以上に困難なことです。細工ならば人の技術で何とかできますが、天然宝石の場合は運次第だからです。たとえどれだけ財力や権力があっても、かならず手に入るものではありません。 だからアンティークジュエリーでもこのような宝物は非常に数が少ないですし、あれば最高級品なのです。 |
2-2-3. 色の揃った美しいエメラルド
規格に合わせてカットする合成石とは異なり、貴重な天然宝石は個性に合わせ、それぞれが最も美しく見えるようカットします。なるべく無駄がでないようにしつつ、最大限に美しさを惹き出すためのカットは、まさに職人技によるオーダーメイドです。宝石1つ見ても、アンティークジュエリーは贅沢さが違います!♪ |
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宝物のエメラルドも厚みや形状にかなり個性がありますが、同じ色だと感じられます。 |
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グリーンの色彩も奥が深いです。 青みが強かったり、黄みが強かったり、明暗や濃淡でも印象がガラリと変わります。無限と言えるほど幅が広く、高性能の人間の眼が「同じ色」と認識できる幅に収まるのは特別なことです。 |
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厚みもカットのフォルムもそれぞれ異なりますが、色彩そのものが「エメラルドと言えばこの色彩!♪」と思えるほど見事な上に、3石とも揃っています。 |
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↑等倍→ |
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撮影用の強いライトを当てた上で拡大すると、向かって左のエメラルドはややインクリュージョンが多く感じますが、実物は揃ったエメラルド・グリーンの美しさを強く感じます。このサイズでの発色は見事です!♪ |
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透明感が強いエメラルドからは、エネルギーに満ちたフレッシュで若々しい美しさも感じます。 |
| 最高品質の石 | 低品質の石 |
今回の宝物(クローズドセッティング) |
【参考】含浸処理したエメラルド・リング(ヴィンテージ〜中古) |
『PERFECTION』(オープンセッティング) |
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現代のエメラルド・リングのババ臭い印象はデザインのせいだと思っていましたが、エメラルドそのものの美しさが一番の原因かもしれません。デザインによってはどの天然石も生かし方がいくらでもありますが、何の変哲もないデザインだと宝石そのものの質が勝負です。透明感のない濁ったエメラルドからは、清らかさや若々しさなどの活力など、感じようもありません。ゴールドのセッティングが悪いわけでもありません。 宝石の大きさしか気にしない成金嗜好の人は今も昔も多いですが、質がどれだけ重要なのか、見比べれば一目瞭然ですね。 |
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実物だと気づかない程度のものですが、メインのエメラルドの中央付近に一箇所、キズのようなものがあります。 |
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約160年は使用されているリングですが、他の部分の摩耗感が少なく、何かにぶつけたにしてはあまりにも小さなキズです。内部のインクリュージョンの様子から、後から付いたキズではなく元々あった、内部から続くクラックの一部である可能性が高いです。 |
『PERFECTION』エメラルド&ダイヤモンド リング イギリス 1860〜1870年頃 SOLD |
今回の宝物 |
「欠陥のないエメラルドはない。」と言うことで知られるエメラルドですが、過去にはパーフェクトと言えるエメラルドをお取り扱いしたことがあります。最高級リングのメインストーンとしては小さめで、エメラルドとしてはやや薄めの色彩でした。深い色彩ではない一方で、明るいネオングリーンを放ち強い存在感を持つ、魅力に満ちたエメラルド・リングでした。 左は少し薄めの色彩だったため、インクリュージョンが入りにくかったのだと推測します。さらに、オーダー主はたとえ無駄が多く出ても、石のパーフェクトな部分だけで作りたかったのでしょう。 |
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天然石の個性によって、カットも最適解は異なります。なるべく無駄が出ず、それでいて美しく見える、最適バランスを見極めます。カットする職人の美的感覚と勘が頼りです。両サイドのエメラルドも大きさこそ同じですが、フォルムがそれぞれ異なりますよね。内包物の避けられないエメラルドの宿命を勘案しつつ、最適にカットされた理想の姿がこのエメラルドなのです♪ |
3. 個性を強調する楕円形の天然真珠
市場では、無数の中からHERITAGEの宝物を厳選します。一度に数百、数千点から選ぶため、1つ1つを事細かに見ることはありません。本当に良いものは意識せずとも瞳に飛び込み、心に訴えかけてきます。 |
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極上のエメラルドだけが持つ鮮烈なグリーンが、まず目に留まりました。 次に目に入ったのは、楕円形の純白のハーフパールです。ある程度のサイズがある楕円パールを、4粒も使うなんて異例です。 |
エメラルド以上に心惹かれると言っても過言ではありません。恋に落ちたような瞬間です。間違いなく最高級品と判断し、買い付けました。養殖真珠のせいで価値が分かりにくくなっている天然真珠ですが、この宝物の真の主役はこの楕円パールと言っても良いほどです。 |
3-1. センスを感じるハーフパールのあしらい
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強烈な色彩を持つ極上エメラルドに、通常の天然真珠だと負けてしまいます。 匹敵できるのは強い白さと、存在感あるサイズを兼ね備えた特別な天然真珠だけです。 |
3-1-1. 天然真珠の多様性
現代の養殖真珠は個性が乏しいです。同じ種類の母貝を、同じ環境で育てるので、当たり前と言えば当たり前です。異常なまでに『均質』を要求する消費者が原因の1つでもあります。買い叩かれる『不揃い野菜』がずっと問題視されながら、未だに解決されない現状が物語っています。人間にまで『均質』が求められる世の中ですが、それに苦しさを感じるのは、どの生き物も共通でしょう。 |
愛媛新聞(2019.9.4) |
多様性に乏しいと、何かが起きた際の絶滅可能性が高まることは知られています。ひと昔前は「日本産のアコヤ貝が上質です!」とPRされていましたが、今では全く聞かなくなりました。実は既に、日本で養殖されるアコヤ貝も中国産とのハーフ貝にほぼ置き換わっています。業界は都合の良いことしか言いませんし、都合が悪くなると平気で主張を変えます。 |
【参考】「最高峰の花珠真珠」とPRされていた現代の養殖真珠 |
養殖真珠は母貝も専門業者が養殖します。個性に乏しい母貝、同じ環境での真珠養殖、そして脱色と染色(一連『調色』)を経て均質化します。さらに表面のブツなど除去し、表面光沢も均質化するために表面を磨きます。 異様にピカピカの養殖真珠が存在するのは表面研磨(ピーリング)のせいです。むしろ安っぽくなる気がしますが、美的センスの問題ですね(笑) |
『Quadrangle』-四角形-エドワーディアン 天然真珠 ネックレス オーストリア? 1910年頃 SOLD |
『山海の恵み』葡萄 ペンダント イギリス 1920年頃 SOLD |
天然真珠は驚くほど個性に富みます。母貝の種類、生育環境もそれぞれです。真珠層の質も異なるため、シルキーマットなものもあれば、真珠層の透明度が高く瑞々しさを感じるものまで、本当に多種多様です。 |
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3-1-2. 強い白さと照りを持つ天然真珠
天然真珠の質感や照り艶も、実物でなければお伝えしきれるものではありません。いくつもの天然真珠を見てきた中でも、この天然真珠は特別な存在感を持っています。 |
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白の密度が濃く、極上エメラルドに引けを取らない存在感があります。 |
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色彩を感じる干渉光を放つ瞬間もありますが、強烈な照り艶の方が印象に訴えかけます。パワフルなエメラルドに対しても、この天然真珠ならば最高の相性です!♪ |
3-1-3. 幾何学アートを実現させる楕円フォルム
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この宝物は最高級品の中でも滅多にないほど、細部までのデザインのこだわりが徹底しています。トップクラスと断言できるレベルです。 |
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宝石の配置は、幾何学でデザインしています。グリーンとホワイト、縦長と横長の組み合わせです。明らかに意図された、このような幾何学系のデザインは、オーソドックスな西洋美術では見ないものです。 |
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| ジャポニズム・リング | |||
| アングロ・ジャパニーズ・スタイル(1851年頃〜1910年代) | アールデコ | ||
イギリス 1860年頃 |
イギリス 1876-1877年 |
![]() イギリス 1876-1877年 |
![]() フランス 1920年代 |
日本の開国を前後し、イギリスではヨーロッパの中で先駆けて日本の美術様式を取り入れ始めました。アングロ・ジャパニーズ・スタイル(英和スタイル)として知られ、1851年頃から1910年代の期間が定義されています。最終的にはアールデコを経て、無国籍のインターナショナル・デザインとして、現代のモダン・デザインにつながっています。 |
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菱形を意匠化した家紋 【引用】播磨屋.com / World of KAMON / 家紋の数と姓氏の数/Adapted |
2代目ジョルジュ・ヴィトンが考案したルイ・ヴィトン社のモノグラム(1896年発表) ©Louis Vuitton |
無駄を極限まで削ぎ落とし、必要なものだけを残すシンプル・イズ・ベストの表現は、日本独特の武家文化で磨き上げられた美術様式です。 ヨーロッパでは家紋や神紋などが『MON』として有名で、主に高度な幾何学で構成されます。241種類の一般的な分類があり、5,116種類の個別の紋があるとされ、さらにそれ以外にも失われた紋や無名の紋が存在することは有名です。ヨーロッパでも上流階級や知的階級が熱心に研究し、新たなクリエーションにつながっています。 |
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1876-1877年 |
菱形を意匠化した家紋 【引用】播磨屋.com / World of KAMON / 家紋の数と姓氏の数/Adapted |
![]() 1920年代 |
井桁に十六菊"IgetaNi16Kiku" ©Blueknight611/Adapted/CC BY-SA 4.0 |
1876-1877年 |
ストライプを意匠化した家紋【引用】播磨屋.com / 家紋図鑑/ 引紋/Adapted |
紋は限られた小さな面積に、最大限の意味と美を最も簡潔に詰め込んだ知的なアートです。 同じく大きさや形に制約があるリングとの相性は抜群で、リングのデザインに試みられたのは必然だったと言えるでしょう。 |
柴田剛中(着席)他、天正遣欧使節一行(1862年) |
欧米の上流階級やエリートが当時の日本人とやりとりする際、家紋を目にする機会は多かったはずです。戦前でも洋装の写真は多いですが、戦後も和装を続ける人は多くいましたし、ご自身の家紋をご存知の方は現代でもそれなりの人数いるでしょう。 日本人同士ならば、家紋を見て出自が判断できる便利システムでした。視認性の良さと美観が意識されており、欧米人の目にも印象的に映ったはずです。 |
『日本誌』エンゲルベルト・ケンペル著(1727年の英語版の表紙) |
徳川氏の三つ葉葵紋が描かれた瓢箪型の蒔絵酒器(江戸時代 18世紀)メトロポリタン美術館 |
家で使用する調度品などにもデザインされます。どこの所属物か分かりますし、デザインとして美しく調和します。ヨーロッパにも紋章はありますが、実は日本の紋の方が、知性や奥深さの観点で圧倒的に上です。ただ、誰にでも理解できるものではありません。このためヨーロッパ社交界の中でも、特に知的階層も兼ねる人だけが理解できる高尚かつ憧れの対象となりました。 |
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| 幾何学デザインのリング | |||
| 1860年頃 | 1876〜1877年 | ||
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だから、家紋や幾何学を意識したジャポニズム系のジュエリーは最高級品ぞろいです。地位と財力に加え、社交界でも別格の知性と教養と美的センスを兼ね備えている者だけがオーダーできる、特殊な美術品です。 今回の宝物が制作された1860年頃は、単なる輸入と蒐集を経て、日本美術の影響がイギリスのデザインに現れ始める初動の時期と言えます。ピーコック・ルームなどアングロ・ジャパニーズ・スタイルが最盛期を迎えた1870年代には、右のようなアールデコを思わせるデザインも生み出されています。 まだそこまで融合していない1860年頃のデザインには、日本美術の幾何学を取り込んだ目新しさと共に、オーソドックスなヨーロピアン・デザインらしい豪華さ、エレガントさなども強く感じられます。 他と比較して今回の宝物が面白いのは、単なる宝石の配置の妙だけでなく、特殊形状の天然真珠をわざわざ手に入れて使っていることです。通常の円形真珠では、この魅力的な幾何学アートは実現しません! |
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この楕円形の天然真珠でなければ幾何学デザインは成立せず、ただ美しいだけの"通常の"ハイジュエリーとなっていたでしょう。 |
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メインストーンのエメラルドに負けない高さがあり、横長の楕円フォルムも兼ね備えます。非常に魅力的であるにも関わらず、類似の宝物が他にはないことからも、このような天然真珠の稀少性が想像できます。 |
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楕円形の天然真珠が複数存在しなければ成立しないデザインである以上、この宝物のメイン・ストーンは天然真珠と言っても過言ではないのです。 まあ極上エメラルドと天然真珠、どちらが主役か考えるのは野暮なことで、真の主役は均衡を意識した『幾何学デザイン』だと思います!♪ |
3-2. 特殊形状かつ美しく均質なハーフパール
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1粒でも入手困難な楕円形で上質な天然真珠を、大きさなど全ての質が揃った状態で4粒も揃えるのはかなり困難です。 天然真珠の価値を理解していた当時の上流階級ならば、これだけでこの宝物の特殊性が理解できます。 |
3-2-1. 対称性の高い楕円真珠を得る難しさ
細長い天然真珠と言えば、ミシシッピ・パールを連想します。19世紀中期頃にパールラッシュが発生し、19世紀後期から20世紀にかけて様々なジュエリーが制作されています。 |
アメリカのミシシッピ川 |
ミシシッピ・パールは100匹の母貝から1粒が採れたそうです。ミシシッピ川も広大ですが、海より過酷ではありません。海水産の天然真珠は母貝の採取が命懸けな上に、商品価値のあるものは1万匹に1粒も採れないほど稀少価値がありました。 |
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海水産より淡水産の方が真珠の成長速度も早いため、質を問わなければミシシッピ・パールは数多く得られました。 このため、安物の需要をも満たすほど大流行できました。ミシシッピ・パールが使ってあるから高級、安物と単純に判断するのは誤りです。 |
| 【参考】天然のミシシッピ・パール |
【参考】HERITAGEでは扱わないクラスのミシシッピ・パール&トルコ石のネックレス(イギリス 1900年頃) |
左はHERITAGEでは扱わないクラスですが、一般市場では高級な部類です。 ちょっとIQテストのようで笑えますが、画像が加工されているようです。異様に左右対称だと感じましたが、真珠の形状や色、チェーンの輪の角度まで完全に左右対称なのはあり得ないことです。海外の業者は、日本人が発想しないようなことまでやりますね。 そこは目をつぶり、大小の真珠はどれも形状は対称ではなく歪で、色彩も多様であることが分かります。 現代だと脱色してしまいますが、このクラスだと、小汚く感じる色彩が見えます。 |
ハイクラスのミシシッピ・パールの宝物 |
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『ドラゴン・フライ』アールヌーヴォー ブローチ フランス 1890〜1900年頃 SOLD |
『Heart of Mary』エナメル ペンダント フランス(ラリック?) 1890〜1900年頃 SOLD |
ユーゲントシュティール ペンダントドイツ 1900年頃 SOLD |
これは全てGenが選んだミシシッピ・パールの宝物です。白く美しい質感の真珠です。高級品には、その格に見合う上質な宝石があしらわれるものです。すべてのミシシッピ・パールがこれほど美しいわけではないのです。形状に注目すると細長いですが、やはり対称的ではありません。 |
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ミシシッピ・パールを生み出すカワシンジュガイは淡水の二枚貝です。真珠は貝の蝶番部分で育まれます。このため、フェザー形状になる傾向があったようです。 ある程度サイズを持つ球状の真珠は1万匹の母貝から1粒程度の割合で採れましたが、海水産天然真珠の代替品にするよりは、形状を生かしたアーティスティックなジュエリーに向いていました。 |
| 【参考】カワシンジュガイ |
| 海水産&淡水産の天然真珠を組み合わせた宝物 | ||
『ハッピー・エンジェル』ストーンカメオ ブローチ フランス? 1870〜1880年代 ¥1,200,000-(税込10%) |
『ドラゴン』アールヌーヴォー ブローチ アメリカ 1900年頃 SOLD |
『オウム&モンキー』ダブルピン ブローチ イギリス 1900年頃 SOLD |
真珠層の成分や厚みが異なるため、質感も海水産と淡水産ではかなり違う印象です。両方をセンス良くデザインした宝物は本当に贅沢ですね。それにしても、海水産でも淡水産でも、対称性が高い楕円形の真珠を得ることは極めて困難なことが感じていただけるでしょうか。 |
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ミニアチュール イースター・エッグ ペンダント(ロケット付)オーストリア 1890〜1900年頃 SOLD |
ジョージアン クラスターリングイギリス 1830年頃 SOLD |
フィリグリー クラスターリングイギリス 1880〜1900年頃 SOLD |
楕円形の天然真珠は、あれば高い需要があったはずです。 お花の花びらを表現する際に理想的だからです。 |
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| ハイクラスのクラスター・リング | ||
![]() クラスター・リング イギリス 1850年頃 SOLD |
![]() クラスター・リング イギリス 1850年頃 SOLD |
クラスター・リングイギリス 1860年頃 SOLD |
左のクラスター・リングは、特にこだわりを以ってデザインされています。僅かながらも楕円形の天然真珠を意図して選び、よりリアルな花びらを表現しようと試みたことが伝わってきます。 |
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| アンティーク | 中古 | ||
| 贅沢な最高級品 | 安物 | ||
バーミンガム 1907年SOLD |
![]() フランス 1910年頃 SOLD |
![]() 【参考】9ct リング 1930年代? |
![]() 【参考】9ctリング 中古 1975年 |
カットできる宝石の場合、花びら型にカットした贅沢なものも存在します。より本物のお花に近い雰囲気が出て美しいです。しかし無駄が多く出るため、アンティークでも余程こだわりを以って作られた最高級品でしか見ることはありません。 ちなみに左から3つ目はアンティークの安物です。0.01ctという極小ダイヤモンドがイリュージョン・セッティングされており、1930年代頃のものと推測します。右はヴィンテージ扱いされていましたが、1970年代以降は中古とカテゴライズすべきです。爪が目立つ作りはアンティークとの違いが一目瞭然ですが、アンティークジュエリーは枯渇が激しく進行しているため、こんなものでも扱うアンティークジュエリー店が増えました。そうでなければフェイクだらけと化しています。安物はルビーの質も悪く、カット以前の話です。 |
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『雪珠真珠』バロック天然真珠 ゴールド・ロングチェーン ヨーロッパ 1890〜1900年頃 SOLD |
天然真珠の場合、富と権力があったとしても、カットで形を都合よく変えることはできません。 これは面白い形と、質の良さを兼ね備えた天然真珠のみを集めた驚きの宝物です。 それぞれの個性が主張しながらも調和する、天然真珠そのものの芸術性の高い宝物です。 1粒1粒を眺めるだけで楽しいですが、対称性が高い同質の楕円真珠を複数手に入れるのは本当に大変そうです。 |
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対称性の高い楕円形で、しかも質の良い天然真珠を複数そろえることがいかに困難なことか、まさに最高級品でしか実現できないデザインなのです!! |
3-2-2. 神技を駆使したスプリット・ハーフ・パール
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立体的な凹凸や真珠の質感は、肉眼でなければ明確に認識することは不可能です。肉眼だと、対角に配置した天然真珠はかなり質感が近い印象です。 |
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![]() ![]() 『HALO』 モダンスタイル 天然真珠 3連ピアス イギリス 1905年頃 ¥770,000-(税込10%) |
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| 天然真珠はそのまま使用する場合と、ハーフパールにして使用する場合があります。奥行方向のデザインの幅が広がるため、美意識の高い高級品は意図して選択します。 | ||
養殖真珠の剥がれて浮き上がった真珠層と内側の核 |
ハーフパールは正式にはスプリット・ハーフパールと呼ばれます。2つに割って作られます。内部まで真珠層だからこそできることです。ほぼ貝殻の核でできた、養殖真珠では不可能な存在です。 |
養殖真珠の剥がれて浮き上がった真珠層と内側の核 |
アンティークジュエリーの修理のために、養殖真珠を削ってハーフパールを作ろうとした人がいましたが、真珠層が核から剥離してしまったそうです。養殖真珠は真珠層と核の密着性が悪く、隙間から皮脂や汗が入り込み、内側から変色します。予想通りの結果という感じです。 修理用のハーフパールも貴重なのでロンドンでも一般には流通しておらず、イギリスの専門の修理師は少しずつ集めてとっているそうです。HERITAGEでも、そうしています。修理1つ見ても思想が分かれるわけですが、興味深いトライアルだと感じました。 |
インド洋の入り江Manaar湾における真珠採取の様子(2500年の歴史がありました)【引用】『宝石学GEMS 宝石の起源・特性・鑑別』ROBERT WEBSTER, F.G.A. 著、砂川一郎 監訳(1980年) ©全国宝石学協会、p.449 |
ペルシア湾におけるアラビア式真珠採取船(潜水法は過去2000年間ほぼ変わっていません)【引用】『宝石学GEMS 宝石の起源・特性・鑑別』ROBERT WEBSTER, F.G.A. 著、砂川一郎 監訳(1980年) ©全国宝石学協会、p.448 |
ちなみに以前Genが職人さんに、天然真珠でハーフパールを作れるか尋ねたことがあります。 これでは全く意味がありません。天然真珠の稀少価値を分かっていない現代人の発想です。スプリット・ハーフパールと呼ばれる通り、割って2つ得られるから意味があります。これは相当な熟練の技術が必要です。 以前、天然真珠ネックレスのオールノットの糸替えを職人さんに頼んだ際、「現代の強化糸でオールノットにするには穴が小さすぎるので、小さな3粒だけ穴を少し拡張する必要がある。」と言われたことがありました。天然真珠の価値を熟知する専門の職人さんでした。初めてのことにも関わらず、ご自身の勉強にもなるからと、わざわざ専用の道具も自費で購入し、採算度外視でトライしてくれました。もし破損しても、リスクは私が負うことを許諾して実現したチャレンジです。 機械で慎重に削ったものの、摩擦熱などもあって1つ破損してしまったそうです。かなりショックだったそうで、残りは手動に切り替え、摩擦熱が発生しないよう相当な時間をかけながら、様子を注視しつつ慎重に削ったそうです。1度の失敗から学び、勘を養い、2度と失敗しない職人芸です。採算やリスクを考える現代のビジネスでは到底不可能なことで、アンティークジュエリーの凄さを改めて実感しました。職人さんの善意にも深く感謝です。 |
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私も養殖真珠を刃物で剥がしてみて分かりました。 可憐に見える真珠ですが、100年以上の耐久性が要求されるアンティークジュエリーの宝石に選ばれるだけあって、想像以上に強かったです。 |
母貝の分泌物が硬化したものなので、爪や歯を想像すると良いです。刃物でもなかなか削れず、硬いのに有機物ならではの粘り気や柔軟性もあり、想像以上に綺麗に剥がすのは大変でした。実は実体顕微鏡を覗きながらのこのような作業は、大企業の研究者として働いていた時代に慣れていたのでトライできました。人生に無駄なことは1つもないですね♪ |
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スパッと綺麗に真っ二つにするには、熟練の職人技が必要だったずです。 球ではなく楕円形だと、割る角度もシビアです。ハーフパール職人の中でも、一番上手な職人にオーダーして実現したものでしょう。 これを実現しなければ、形と質感が揃ったハーフパールを4粒も用意することはできません! |
![]() 『美意識の極み』天然真珠ピアス イギリス 1870年頃 SOLD |
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天然の真珠で、完璧に同じ質感とサイズのものを2つ得るために、ハーフパールの技法を駆使した特別な宝物がありました。 大きいほど綺麗に真っ二つにするのは困難で、リスクを考慮すると、通常の高級品ならばよく似た2粒で作ります。 依頼主がリスク覚悟で頼み、神技の職人が見事に応えた成果です。 |
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工業製品に満ちた現代と異なり、自然の恵みや手仕事にものに囲まれたアンティークの時代は、『質が完全に揃ったもの』は特別な存在でした。並べて配置するこの宝物のデザインだと、質が揃っているかどうかはあからさまに分かってしまいます。 |
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社交界でも稀に見る美意識の持ち主の、特別オーダー品であることは間違いありません!♪ |
4. 古い時代ならではの細工が楽しめるリング
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ミッドヴィクトリアンはゴテゴテした成金趣味のデザインが社交界でも流行したため、Genも私もご紹介割合がとても少ないです。 作り自体は良いものも多く、買い付けでも残念に感じていました。 この宝物は極上の宝石やセンスの良いデザインと共に、少し古い時代ならではの細工も楽しめるのが魅力です!♪ |
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このリングはエメラルドや天然真珠と共に、ゴールドも存在感があります。 金価格が爆騰した19世紀初期のジョージアンのリングでは見ることのない、ゴールドの分量です。 |
『ソフィア』リュミエール・アゲート カンティーユ ペンダント&ブローチ フランス or イギリス 1820年頃 ¥880,000-(税込10%) |
金価格が史上最も高騰した時代はゴールドそのものがステータスの象徴となり、ゴールドを最大限に惹き立てるためのデザインと共に金細工技術も進化しました。 1848年に始まるカリフォルニアのゴールドラッシュによって金価格が下落し、ゴールドがステータスの象徴でなくなると、ゴールドへのこだわりと共に優れた金細工技術も失われていきます。 |
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19世紀初期のジョージアンよりはゴールドを多く使用できる一方で、レイト・ヴィクトリアンほど金価格は低下しておらず、ジョージアンの優れた金細工技術が残っていた中間の時代ならではのデザインと作りと言えます。 |
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4-1. メインストーンを惹き立てる打ち出し
4-1-1. 『グリーン × ホワイト × ゴールド』のデザイン
ゴールドは至高の金属として君臨してきた時間が圧倒的に長いため、細工技術も多種多様です。この宝物で特徴的なのは、打ち出しと彫金です。 |
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| エメラルドの上下にデザインされているのが、ゴールドの打ち出しです。 |
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あるのとないのとで雰囲気はまるで違います。極上エメラルドや天然真珠のパワフルな存在感にも霞むことなく、主役の宝石を惹き立てつつ、そのものの美しさが意識に飛び込んできます。 楕円形のエメラルドや天然真珠に合わせたフォルムで設計されており、デザイン的に見事に調和しています。 |
4-1-2. 神技の小さくて精緻な打ち出し
打ち出しは少ない金属の分量でボリューム感を出し、一方で、軽量化することでジュエリーとしての使い心地の良さも実現できる技法です。金価格が史上最も爆騰し、ゴールドがステータスの象徴となった19世紀初期に特に重宝された技法です。 |
![]() シトリン ネックレス&ピアス フランス 19世紀初期 SOLD |
アメジスト ブローチフランス 1830年頃 SOLD |
正装時にも着け映えし、ゴールドそのものも豪華な宝石に負けない存在感を出すことができます。 |
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【参考】ミッド・ヴィクトリアンの打ち出しブローチ(1850年頃) |
ミッド・ヴィクトリアンになると、ただボリュームを出すために使用するケースが多くなります。 これは典型的なミッド・ヴィクトリアンのデザインで、HERITAGEは扱わない部類の高級品です。 肥満体型を気にするヴィクトリア女王がファッション・リーダーだった当時、その体型をカバーするために、ボリュームあるクリノリン・ドレスが大流行しました。 |
ボリュームあるドレスに合わせてジュエリーにも迫力が必要とされた結果、この時代は成金だけでなく、通常の王侯貴族にまで成金的なジュエリーが流行しました。宝石の質も良く、作りも良いのですが、ハリボテな一方で主張が激しいデザインがGenも私も好みではなく、結果としてこの時代のジュエリーは私たちのお取り扱い数が極端に少ないです。 |
| ジョージアン | ミッド・ヴィクトリアン |
金価格爆高期:1830年頃 |
【参考】クリノリン・ドレス流行期:1850年頃 |
どちらもゴールドの存在感を出すためのデザインと、それに伴う打ち出しの技法です。デザイン要素は一見類似していますが、高級感がまるで違うのが興味深いです。単純にピカピカに磨き上げただけのゴールドは、面積が広いと途端に成金臭と、頭が空っぽそうな印象が強くなります。 Genがご紹介したジョージアンの宝物は、打ち出しした面にさらに彫金で優美な装飾がデザインされています。ボリュームあるゴールドの存在感がありながらも、この彫金装飾のお陰で知的さや格調高い高級感が放たれています。行き届いた美意識は、美しいサイベリアン・アメジストの特別な覆輪留めにも現れています。10年ひと昔と言いますが、少し時代が降るだけでも全く違うものですね。 レイト・ヴィクトリアンになると、打ち出しはより成金感の強いジュエリーのための技法となっていきます。 |
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そのような打ち出しの技法を使った宝物を、等倍で並べました。今回のリングは打ち出し部分は少ないものの、極端に細かい細工であることがお分かりいただけると思います。小さいほど魅力的だったりしますよね!♪ |
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| 1850〜1860年頃の打ち出しの宝物 | |||||
『メカニカル』リング 兼 ブレスレット イギリス 1850年頃 SOLD |
『愛の錠前』パドルロック ペンダント イギリス 1850年頃 SOLD |
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![]() ![]() ↑等倍 |
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これは1850〜1860年頃の、打ち出しを駆使した宝物です。19世紀初期に発生した金価格爆騰パニックですが、英国議会に地金委員会を設置して対策がなされ、徐々に収束していきました。 金価格が最高潮だった時代は、とにかくゴールドのボリューム感が求められました。しかし、金価格が収まっていくに連れ、その必要性は薄れました。その結果、ミッド・ヴィクトリアンの美意識の高い特別な宝物に限り、ボリュームではなく技法としての域を極めた、美しい打ち出しのジュエリーが生み出されることとなりました。 ハリボテ的に大型のフォルムを作るタイプの打ち出しとも、浅い彫りで模様を描く彫金とも異なります。カメオのような、立体彫刻的な美しさがあります。 |
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今回の宝物はデザインの要素としての効かせ方が、抜群のセンスを感じます。かなり奥行きがあり、両端はクルッと渦巻いたようにデザインされています。実際はとても小さい細工です。これだけ微細にも関わらず、キリッとしたシャープな打ち出しができるのは古い時代ならではと感じます!♪ |
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彫金を楽しむような面積はなく、代わりに表面はピカピカに磨き上げられています。なだらかなカーブが絶妙で、角度によって放たれる黄金の輝きは非常に存在感があります。絶えずインパクトある色彩を湛えるエメラルドと天然真珠に対し、瞬間的に見える黄金の光沢が、動的なアクセントになっています。 |
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打ち出しパーツは、全体が複雑な立体でデザインされています。内側の広い面だけでなく、フチや粒金のような渦巻き部分が光る瞬間もあり、黄金の輝きは変化に富みます。着けていて、とても見映えするリングです。手元で眺めるだけでも最高に楽しいです♪ |
4-2. シャンク全体のエレガントな彫金&フォルム
4-2-1. 前代未聞の波型フォルムのシャンク
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ショルダーはY字型の透かしデザインです。Y字型のショルダーは2箇所でベゼルに接続するため、1本の線でつなぐより、それぞれを細くできます。リングとしての強度を保ちつつ、繊細で洗練された雰囲気が出せるため、シンプルなY字型ショルダーは定番の1つとして、高級リングでたまに見かけます。 |
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しかし、後ろ側まで含めて、全体を波型で造形したリングは前代未聞です。後ろ側まで彫金などデザインされているリングは、最高級品ならば稀に存在しますが、フォルムまでこだわったものは他に見たことがありません! |
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波型フォルムのシャンクは全面が平坦ではなく、上下両端は絶妙なテーパーが付いています。輝き方の僅かな違いで、なんとなく感じ取っていただけるでしょうか。この立体感が、さらなる高級感を生み出しているのです。このように『雰囲気』までデザインするのが、ハイエンドの美意識を持つ特別な最高級品です!♪ |
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Y字型部分の透かしも、キリッとしたシャープな作りです。実物の大きさを考えると、いかに完成度の高い極小細工かお分かりいただけると思います。シャープペンシルより遥かに細い鑢(ヤスリ)でなければ、ここまで細くなりません。当然、道具も職人が特別に自作する領域です! |
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作られてから160年ほどは経過しており、通常ならばサイズ変更していて当たり前ですが、その痕跡はありません。歴代の全ての持ち主が、見えない裏側までの施された、前代未聞のデザインの価値を理解していた証です。使用感がないわけではありませんから、良い持ち主に愛されてきたのでしょう。 |
4-2-2. 優美な彫金模様
流れるような彫金模様が美しいです。彫金は拡大すると無骨に見えることもありますが、実物だと繊細でエレガントな印象です。浅い彫金だと『質感』として感じますが、ある程度深さがある彫りなので、格調高い高級感も感じます。 |
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凹凸や溝にパティナが見られます。入り込んだチリやホコリなどが長い年月の間に石化したものなどを含め、時間の経過によって出てくる味わいのようなもので、日本語の侘び寂びの『寂び』に相当します。この パティナの効果で彫金模様が際立ち、作られた当時より美しさが増しています!!♪ |
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言語化されている通り、ヨーロッパ貴族もこの味わいを「美しい!」と感じ、愛する文化がありました。そのような共通の素地があったからこそ、欧米人でも上流階級や知的階層の一部は日本の侘び寂びを深く理解し、日本美術を特別視することができたのでしょう。 当時のオーダー主や作者も、この『成長』は計算してデザインしたと思います。良い感じになりました♪ 分かっているディーラーだとパティナの価値を理解しており、この古い味わいを保存したまま紹介してくれます。分かっていないディーラーの手を通ると、新品の如く磨き上げていることも少なくありません。私たちはガッカリします(笑) パティナは長い年月を経たものの証であり、アンティークとして価値が認められています。フェイクが氾濫する現代の市場に於いて、パティナの価値はより一層高まったと言えます。磨く場合は、軽めに留めておくのがお勧めです。 |
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コロナでやや廃れた印象ですが、欧米圏は握手文化も根強いです。掌の内側が視界に入る機会も少なくなく、リングの裏側までのデザインはポイントが高いです。サイズ変更を経験していないからこそ、綺麗に連続した模様が楽しめます♪ |
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上下テーパーと、内側の優美な模様との境界に縁取りが彫金されています。シンプルな一手間ですが、それぞれを抜群に際立たせる効果があります。サイズを考えると、精緻な極細ラインは信じがたい神技です! |
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テーパー部分の彫金も地味に見えますが、美観に大きく効いています。 このような手間こそが、全体の高級感を何倍にも高めます♪ |
エメラルド&ハーフパール リングイギリス 1860年頃 SOLD |
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ちなみにこのリングも、一般的なハイジュエリーと比較すると別格です。10年に1度くらい出逢えたらラッキーと言えるレベルの宝物です。 |
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しかし今回の宝物はショルダーの立体造形、彫金模様の深く滑らかな彫りなど、さらに徹底しています。いかに異例中の異例な宝物か、お分かりいただけるでしょうか!♪ |
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正面からも、Y字型の波型の透かしや縁取り、各部位の彫金模様を感じることができます。 単純な宝石物ではないどころか、ここまでこだわり抜いたリングは他にないと感じます!!♪ |
裏側
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裏側もスッキリとした綺麗な作りです。 |
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着用イメージ
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主張の激しいデザインでないながら、メインのエメラルドは相応のサイズと共に、色彩が見事なので着け映えします。 両サイドの天然真珠も照り艶が素晴らしく、抜群の存在感を放つリングです。 エメラルドを覆う、上下の打ち出しが黄金の輝きを放つ瞬間は、さらに格調高くゴージャスです。上品さがありながら、華やかな場所でも十分に映えるはずです。 ミッド・ヴィクトリアンとは思えないほど洗練された雰囲気がありながらも、大英帝国最盛期とされる、この時代ならではのパワフルな魅力があります♪ |
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別の室内灯で撮影したため、上の画像とは肌色が少し違いますが、指のわきから見えるデザインの美しさも感じていただけるでしょうか。全く隙のないリングです。エメラルドも本当によく煌めきます。他のアイテムと違い、リングは着用者自身が手元で眺めて楽しめるのも魅力です。ずっと見ていられる至高のエメラルド・リングです♪ |
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イギリス 1876-1877年


『ウロボロス』
エメラルド スネーク・リング
【参考】エメラルド・リング(現代)
【参考】ギルソンの合成エメラルド・リング(ヴィンテージ)
コロンビア産エメラルドの原石
『PERFECTION』
『エメラルドの深淵』
エメラルド リング
『The Beginning』
『Sweet Emerald』
アールデコ エメラルド・リング
アールデコ エメラルド リング
ヴィクトリアン クラスター リング


クラスター・リング
クラスター・リング
『STYLISH PINK』
『慈愛の心』
アクアマリン ネックレス
『社交界の花』
ペリドット&シードパール ネックレス
『Day's Eye』
『生命の躍動』
ペンダント
アトリエに懸かる虹の橋(Genお気に入りの1枚♪)
『マムルーク朝のムハンマド・アリの城塞モスクと墓を巡る、新カイロと旧カイロの道中』
『睡蓮の葉とワイルド・キャロット』(1895-1898年)メトロポリタン美術館
『睡蓮』(1913年)メトロポリタン美術館
『睡蓮』(ルイス・カムフォート・ティファニー 1913年)メトロポリタン美術館
ブローチ&ペンダント
ペリドット&シードパール ペンダント
エドワーディアン ネックレス
『永久の天然真珠』


古のエメラルド&ダイヤモンド ピアス
アールデコ ステップカット・ダイヤモンド リング

【参考】1930年頃の天然エメラルド・リング

シダーウッド・オイル
オイル含浸処理前と後 

【参考】含浸処理したエメラルド・リング(ヴィンテージ〜中古)
【参考】合成コランダム(現代)


古のエメラルド・ペンダント
『美しき魂の化身』
『La Dame pourpre』






【参考】「最高峰の花珠真珠」とPRされていた現代の養殖真珠
『Quadrangle』-四角形-
『山海の恵み』
菱形を意匠化した家紋
2代目ジョルジュ・ヴィトンが考案したルイ・ヴィトン社のモノグラム(1896年発表)
井桁に十六菊
ストライプを意匠化した家紋
柴田剛中(着席)他、天正遣欧使節一行(1862年)
『日本誌』エンゲルベルト・ケンペル著(1727年の英語版の表紙)
徳川氏の三つ葉葵紋が描かれた瓢箪型の蒔絵酒器(江戸時代 18世紀)メトロポリタン美術館

アメリカのミシシッピ川
【参考】HERITAGEでは扱わないクラスのミシシッピ・パール&トルコ石のネックレス(イギリス 1900年頃)
『ドラゴン・フライ』
『Heart of Mary』
ユーゲントシュティール ペンダント
『ハッピー・エンジェル』
『ドラゴン』
『オウム&モンキー』
ミニアチュール イースター・エッグ ペンダント(ロケット付)
ジョージアン クラスターリング
フィリグリー クラスターリング
バーミンガム 1907年


『雪珠真珠』



養殖真珠の剥がれて浮き上がった真珠層と内側の核
養殖真珠の剥がれて浮き上がった真珠層と内側の核
インド洋の入り江Manaar湾における真珠採取の様子(2500年の歴史がありました)
ペルシア湾におけるアラビア式真珠採取船(潜水法は過去2000年間ほぼ変わっていません)
『美意識の極み』
『ソフィア』
アメジスト ブローチ
【参考】ミッド・ヴィクトリアンの打ち出しブローチ(1850年頃)
金価格爆高期:1830年頃
【参考】クリノリン・ドレス流行期:1850年頃
『メカニカル』





